高校地理では、ホイットルセーの農業地域区分でヨーロッパの農業を学習する際に、二圃式農業がまず登場します。この二圃式農業を、単に「耕地を二つに分けて1年ごとに休ませる農業」で終わりにしていませんか? 本記事では、そこから更に突っ込んで、二圃式農業では「いつ」「どこで」「何を」作っているのかを学んでいきます。また、二圃式農業と三圃式農業の本質的な違いを解説します。
二圃式農業とはどのような農業か
作物に必要な16の化学成分のうち、窒素、リン、カリの三つが最も重要です。作物の栽培によってこれらの養分が失われたら、補充しなければなりません。そこで耕地を二つに分け、片方を1年間休ませる(休閑地)のが二圃式農業です。
窒素固定するマメ科の植物を栽培しない場合、つまり自然のまま耕地を休閑地とした場合、窒素の年間の増量はヘクタール当たり6.7キログラムと推定されています(アメリカ合衆国での推定)。マメ科の植物を植えた場合、例えばイングランド南部ではクローバーの栽培によって年間112~224キログラムの窒素を固定するそうです。その差は20~40倍もあります。
地中海世界の土壌が肥沃ではない理由については次の記事をご覧ください。
二圃式農業における作物
二圃式農業では、どのような作物を栽培していたのでしょうか。ここでは、古代の地中海世界で行われていた農業をもとに解説していきます。この「古代地中海農業」は、現代の地中海式農業につながるものです。
二圃式農業における主食用穀物
古代地中海の二圃式農業においては、主食として小麦と大麦が栽培されていました。どちらも秋に種をまき、初夏に収穫されました。小麦も大麦も主食用です。現代の地中海式農業では、大麦は飼料やビール用に栽培されますので、違いが有りますね。
小麦も大麦も低地で栽培されますが、土壌が肥沃な土地ならば小麦を、肥沃でない土地ならば大麦を選択していたようです。冬にしか穀物を栽培しないのは、夏に乾燥する地中海性気候の特徴によるものです。
小麦 ⇒ 比較的肥沃な低地で冬作 ⇒ 主食用
大麦 ⇒ 肥沃でない低地で冬作 ⇒ 主食用
二圃式農業における果実
高校地理の二圃式農業の説明に樹木作物は登場しませんが、実際には栽培されていました。例えば、ブドウは低地で栽培され、夏~秋に収穫されました。ブドウの果実は天日干しで干しブドウにされました。ワイン(ブドウ酒)の製造も古くから行われていましたが、キリスト教の拡大とともに、聖餐に必要なワイン文化も広がっていったのでした。
オリーブとコルクガシも古代には既に栽培されており、これらは山地や台地の斜面で栽培されました。
ブドウ ⇒ 低地にて夏・秋に収穫 ⇒ 保存食(干しブドウ)のちにワイン用
オリーブ ⇒ 山地・台地の斜面にて冬に収穫 ⇒ 保存食、採油用
二圃式農業における家畜
古代地中海世界で重要な家畜は、ヒツジとヤギです。ヒツジからは毛と乳が、ヤギからは皮革と乳が採取され、乳はどちらもチーズに加工されました。
ブタも放牧されましたが、当時は肉食が盛んではなかったため、重要視されませんでした。
家畜はどれも自然放牧され、樹木の新芽を食べてしまうため、地中海地域の森林を荒廃させる原因となりました。
ヒツジ ⇒ 自然放牧 ⇒ 毛、乳(チーズ)
ヤギ ⇒ 自然放牧 ⇒ 皮革、乳(チーズ)
ブタ ⇒ 自然放牧 ⇒ 肉用
二圃式農業と三圃式農業の本質的な違い
二圃式農業が地中海世界から西ヨーロッパに広がると、中世には三圃式農業に発展します。西ヨーロッパは西岸海洋性気候ですので、夏に乾燥する心配が有りません。また、落葉広葉樹林の影響やレスの分布などにより、土は肥沃です。そのため夏にも耕作が可能で、土地を休ませるのも3年に1回で済むようになりました。
しかし二圃式農業と三圃式農業の違いは、2年か3年かというサイクルの違いや、夏にも穀物を作るという表面的なものだけではありません。二圃式農業の時代は、家畜は自然放牧で、飼料を栽培したり牧草を与えたりはしていませんでしたが、三圃式農業では大麦を飼料として与えます。また、二圃式農業の時代には家畜の糞を集めて肥料とすることはありませんでしたが、三圃式農業では家畜の糞を肥料とします。
つまり、自給作物・飼料作物・家畜が、一つのシステムの中で有機的に結びついているのが三圃式農業なのですね。これが二圃式農業との本質的な違いです。
参考文献:小林浩二(1986)『西ヨーロッパの自然と農業』大明堂
デイビッド・グリッグ(1995)『An Introduction to the Agricultural Geography, second edition』(邦訳『農業地理学』農林統計協会)