「製紙・パルプ工業」とセットで語られることが多いのですが、そもそも紙とパルプは何が違うのか。工業立地論の中で、製紙・パルプ工業はどのような立地特性をもつのか。製紙・パルプ工業の盛んな国や都市はどこか。こういった内容の記事となっています。
紙とパルプの違い
製紙・パルプ工業とセットにされてしまうと、二つは同じようなものと思われがちですが、実際は異なります。
紙 → 繊維を薄く広げて乾燥させたもの
パルプ → 紙を作るための材料となる植物性繊維。主に木材から作られる
木材からパルプを作る場合、先にチップと呼ばれる小片に加工する場合があります。ですので、
木材 → チップ(小片) → パルプ(繊維) → 紙
という図式で説明できます。パルプ化する工程(パルプ工業)と製紙工程(製紙工業)を同じ敷地で行う(紙パルプ一貫工場)場合と別々に行う場合があります。
製紙・パルプ工業の立地特性
パルプ工業においては、木材チップを高温で煮込み、繊維であるパルプを作ります。製紙工業は、そのパルプを水に溶かしてから薄く広げて乾燥させます。つまり、製紙・パルプ工業には材料として木材と水が必要です。水は比較的どこでも手に入るものです。木材は、木の豊富な林業の盛んな場所で手に入れます。製品としての紙を最も必要としているのは大都会ですが、木材の状態で運ぶよりも、紙にしてから運んだ方が輸送費はかかりません。よって、製紙・パルプ工業の立地は原料指向型工業となります。とくに山地の森林を河川で輸送し、かつ河川の水も利用できるということで、河川の下流部に立地することが多いです。
しかし近年は輸入材料の使用も増えています。その場合、消費地である大都市の近くで輸入すると効率が良いため、臨海指向型工業もしくは市場指向型工業とも言えます。
高校地理では、伝統的な方である原料指向型工業として認識しておくとよいでしょう。
製紙・パルプ工業は伝統的には原料指向型工業
製紙・パルプ工業に関する統計
パルプの生産(2017年)『データブックオブザワールド』より
1位 アメリカ 26.0%
2位 ブラジル 10.1%
3位 カナダ 8.8%
4位 中国 8.6%
5位 スウェーデン 6.4%
紙と板紙の生産(2017年)『データブックオブザワールド』より
1位 中国 27.4%
2位 アメリカ 18.3%
3位 日本 6.0%
4位 ドイツ 5.5%
5位 インド 3.5%
日本の製紙
「業界動向」というサイトによると、日本の製紙業界におけるシェアは次のようになっています。
製紙業界 売上高シェア(2019-2020年)
1位 王子HD 28.6%
2位 日本製紙 19.8%
3位 レンゴー 13.0%
4位 大王製紙 10.4%
5位 北越コーポレーション 5.0%
日本での紙の需要は、人口減少やデジタル化などの理由で減少していますが、eコマースの普及などにより段ボール用原紙の需要は伸びています。
また、日本での古紙回収率は79.5%(2019年)、古紙利用率は64.4%(2019年)となっています。日本は古紙の輸出国であり、輸出先上位は①中国52.2%・②ベトナム18.6%・⓷台湾9.7%です。(2019年)
日本のパルプ輸入依存率は17.2%(2019年)です。(以上、日本製紙連合会HPより)
製紙・パルプ工業で有名な都市
日本における製紙工場の所在地一覧は、日本製紙連合会のページが参考になります。
高校地理の授業でよく登場する製紙・パルプ工業の都市は次のようになっています。
日本 … 富士市(静岡)、苫小牧市(北海道)
アメリカ合衆国 … シアトル、ポートランド
カナダ … ヴァンクーヴァー、オタワ
その他、『地理用語集』で製紙・パルプ工業が盛んな都市として記述がある都市は次の通りです。
日本 … 旭川市(北海道)、秋田市
韓国 … テジョン(大田)、テグ(大邱)
中国 … ハルビン(哈爾浜)
ドイツ … デュッセルドルフ
ウクライナ … ドニエトロペトロフスク
ロシア … クラスノヤルスク
カナダ … モントリオール、トロント