工芸作物の代表例である綿花は、私たちが毎日身に付けている衣類の原料であるにもかかわらず、その実物を見る機会はほとんど有りません。というのも、現在の日本ではほとんど栽培がされていないからです。しかし江戸時代の日本では大阪や愛知を中心に綿花栽培は盛んでした。本記事では、統計も使いながら、綿花栽培に関する事柄を学習します。
綿花の呼び方について
綿花(めんか)とは、文字通り「綿の花」のことです。よって、植物の名称としては綿(わた)となります。この綿には花が咲き、その花の種子の周りに綿毛という繊維を生じます。この繊維を木綿(もめん)と呼びます。つまり、木綿を生じる綿の花のことを綿花というわけです。ただし地理の授業や統計書では、「綿の栽培」と言わずに「綿花の栽培」、「木綿の生産量」と言わずに「綿花の生産量」と言いますので気を付けましょう。
綿花の起源
綿花は、旧大陸・新大陸ともに野生種が存在していたため、紀元前6000~5000年にはどちらの世界でも栽培が始まっていました。旧大陸ではインド亜大陸で、新大陸ではメキシコが最も古い栽培地のようです。
綿花の生育条件
綿花は、熱帯および亜熱帯の気候下で生育する植物です。発芽適温は20~25℃で、生育期には高温多雨(平均気温25℃程度)を好みます。降水量は600㎜~1500㎜は必用となりますが、灌漑ができるのなら乾燥地でも栽培が可能です。どちらにせよ、開花から収穫にかけての時期は乾燥しているのが望ましいとされます。ですので、播種は春、収穫は秋となります。
一般財団法人日本綿業振興会のHPに「綿栽培日記」というコンテンツがあります。これは兵庫県での栽培記録で、5月に播種し10月に収穫しています。
綿花の利用
綿花の利用方法は、その綿毛を繊維として利用することが中心です。この繊維から作られた糸を綿糸、そこから作られた布を綿布または綿織物と呼びます。綿布は吸湿性に優れ、肌触りも良いことから、下着やTシャツなど直接肌に触れる衣類に利用されます。
綿毛を糸にせず、綿の塊のまま布に詰め込むことで、中綿の防寒具や綿布団が作られます。ダウン(羽毛)よりも廉価にできます。最近は中綿と言っても、化学繊維が中心です。
綿毛を取った後の種子からは綿実油という油分が採取でき、これは食用油として使われます。
綿花に関する統計
綿花に関する統計を見ていきます。よくある話ですが、中国は生産大国であると同時に輸入も多いことが分かります。また、ベトナム、中国、バングラデシュなど、衣料生産の盛んな国が綿花を多く輸入していることも読み取れますね。
綿花の生産量
綿花の生産量(2014年)『世界国勢図会』より
1位 インド 23.7%
2位 中国 23.6%
3位 アメリカ合衆国 13.7%
4位 パキスタン 9.1%
5位 ブラジル 5.4%
綿花の輸出量
綿花の輸出量(2016年)『世界国勢図会』より
1位 アメリカ合衆国 36.4%
2位 インド 12.8%
3位 ブラジル 11.9%
4位 オーストラリア 10.6%
5位 ブルキナファソ 4.5%
綿花の輸入量
綿花の輸入量(2016年)『世界国勢図会』より
1位 ベトナム 14.6%
2位 中国 14.1%
3位 トルコ 13.0%
4位 インドネシア 10.7%
5位 バングラデシュ 9.6%
各国の綿花生産
インドにおける綿花生産
インドはデカン高原での綿花栽培が有名です。デカン高原に見られるレグール土という間帯土壌は、肥沃で綿花栽培に適しており「黒色綿花土」とも呼ばれます。
インドの州別綿花生産量(2015-2016年)www.mapsofindia.com より
1位 グジャラート州
2位 マハーラーシュトラ州
3位 テランガナ州
4位 アンドラ・プラデシュ州
5位 マッディヤ・プラデシュ州
中国における綿花生産
中国の綿花生産を省別にみると、新疆ウイグル自治区におけるものが断トツで1位です(2019年)。その他、華北・華南地方で盛んです。
中国の省別綿花生産量(2019年)www.statista.com より
1位 新疆ウイグル自治区
2位 河北省
3位 山東省
4位 湖北省
5位 湖南省
アメリカにおける綿花生産
アメリカ合衆国南東部は綿花栽培が盛んで「コットンベルト」と呼ばれます。綿花の収穫では機械化が遅れたため、手作業での摘み取りが必要でした。そのため黒人の奴隷労働に頼る南部とそうでない北部の間の対立が起き、これが南北戦争の要因の一つとなりました。
アメリカ合衆国の州別綿花生産量
1位 テキサス州
2位 ジョージア州
3位 ミシシッピ州
4位 アーカンソー州
5位 カリフォルニア州
中央アジアにおける綿花生産
中央アジアの国々、とくにカザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンは綿花栽培が盛んです。この地域は乾燥帯に属しているため、本来は綿花栽培に適しているとは言い難いのですが、アムダリヤ川・シルダリヤ川の水を灌漑してそれを可能にしています。乾燥地帯で灌漑をすれば、農地の塩類集積が進みます。綿花はもともと塩水には強い作物ですが、それを上回るほどの塩類集積が進むと農地が放棄され、使い物にならない土地になってしまいます。これは地理の授業では砂漠化の一つの事例として頻出です。また、アムダリヤ川とシルダリヤ川での過度の灌漑により、アラル海が縮小してしまったことにもつながっています。
日本における綿花
江戸時代の日本では自給していた綿花栽培ですが、明治時代になると外国産の安価な綿花が入ってくるようになり、20世紀になると国内の綿花栽培はほぼ消えてなくなります。現在は伝統工芸やワークショップなど、小規模な綿花栽培を行っている場所があり、これは先述した日本綿業振興会のHPで紹介されています。
外国産の綿花が入ってくる前の日本における綿花栽培を見ていきます。江戸時代には全国規模の数量的なデータはほとんど無かったでしょうから、明治初期のデータを見ます。
日本における国別実綿産額上位(明治9~15年の7年間平均)
1位 摂津国(兵庫県~大阪府)
2位 三河国(愛知県)
3位 河内国(大阪府)
4位 尾張国(愛知県)
5位 伯耆国(鳥取県)
参考資料:浮田典良(1955)「江戸時代綿作の分布と立地に関する歴史地理学的考察」人文地理