亜寒帯冬季少雨気候区(Dw)は、ケッペンの気候区分の中では、シベリア東部から極東ロシア一帯にしか分布しない局所的な気候区分です。本記事では、そのような局所的な気候がなぜ生まれたのかを見ていきます。
亜寒帯冬季少雨気候(Dw)の特徴
ケッペンが亜寒帯冬季少雨気候に付けた記号はDwです。Dは亜寒帯、つまり「寒帯に次ぐ寒さ」ということ。wはwinter trocken、これはドイツ語で「冬に乾燥」という意味です。言い換えると「夏に雨が降り、冬は少雨」ということです。
Dの記号には、「亜寒帯」という言い方と「冷帯」という言い方があります。現行(2020年時点)の地理Bの教科書では、帝国書院が「亜寒帯」、二宮書店が「冷帯」という言い方をそれぞれ採用しています。ちなみに英語ではContinental climate(大陸性気候)と名付けられています。これが日本語に訳されるときに、どのような議論があったのか知りませんが、私は「亜寒帯」という言い方の方が使いやすいと考えています。というのも、亜寒帯なら「寒帯に次ぐ」という意味で、「寒帯の方が寒い」ということが明確です。しかし冷帯では、「冷」と「寒」とどちらの方が寒いのか分かりにくいからです。
具体的にDwになる条件を説明します。「寒帯に次ぐ寒さ」とは「最寒月平均気温が-3℃未満」のことです。
「夏に雨が降り、冬は少雨」とは「最少雨月降水量(冬)の10倍以上の降水が最多雨月(夏)にある」ということです。
ただし、最寒月平均気温が-3℃未満であったとしても、最暖月平均気温が10℃未満になってしまえばE(寒帯)になってしまうので、最暖月平均気温も見る必要があります。
D ⇒ 亜寒帯(冷帯) = 最寒月平均気温 が -3℃ 未満
w ⇒ 冬季少雨 = 「夏の雨量」が「冬の雨量」の10倍以上
最暖月平均気温が10℃以上
このように、冬は本格的に寒く、夏はそれなりに暑い。つまり気温の年較差が大きいのが亜寒帯の特徴の一つです。気温の年較差が大きいのは大陸性気候の一つの特徴ですから、D気候のことを英語で大陸性気候と呼ぶのも納得できます。
次に、「夏に雨が降り、冬に降らない」気候がなぜ生まれるのでしょうか。その理由を説明する前に、そもそもDw気候区がユーラシア大陸の東部、いわゆる極東ロシア周辺にしか分布していないことを知っておく必要があります。緯度的に偏西風の影響を受ける中緯度では、大陸東部は大陸性の気候となります。地球で最も東西の幅が長いユーラシア大陸の東部なら、なおさらです。よって、この地域では冬になると気温が下がり、強力な高気圧が発生します。北半球の寒極と呼ばれるオイミャコンが位置するのも、この辺りです(厳密にはオイミャコンはDf気候区ですが、この一帯はDwと認識しておきましょう)。よって、冬季は少雨となります。夏は逆に海から季節風が入ってきますので、冬の10倍以上の降雨が見られることになります。
亜寒帯冬季少雨気候(Dw)の雨温図
まず気温を見ます。最寒月平均気温が-3℃未満であること。そして最暖月平均気温が10℃以上あること。これで亜寒帯と判断します。
次に雨の降り方がw型であることを読み取ります。北半球なら、気温が山型で降水量も山型。南半球なら、気温が谷型で降水量も谷型です。
夏と冬の降水量を比較し、夏の最多雨量月の降水量が、冬の最少雨量月の降水量の10倍以上あればDwとなります。
亜寒帯冬季少雨気候(Dw)の植生
そもそもD気候とE気候の境界線である「最暖月10℃」というのは、樹木が生えるか生えないかの境界線でもあります。よって、亜寒帯気候(D)であるならば樹木が見られます。ただし、寒さは植物にとっては過酷な条件ですから、寒さに強い樹種が生えます。熱帯のように「多種多様な樹種による密林」とはならず、少ない種類の樹木が一様に広大に生えているという森林を形成します。
針葉樹林は広葉樹林に比べると寒さに強いため、亜寒帯の植生は針葉樹林が中心となります。針葉樹林にも常緑針葉樹林と落葉針葉樹林がありますが、Df気候は常緑針葉樹林(モミ属、トウヒ属)が中心となります。より寒いDw気候区は落葉針葉樹林(カラマツ属)が中心となります。シベリアでは、エニセイ川辺りを境に、西が常緑針葉樹、東が落葉針葉樹になっているようです。
このような針葉樹の森林はロシア語でタイガと呼ばれています。
亜寒帯冬季少雨気候(Dw)の土壌
亜寒帯気候区は低温であるため、落ち葉などの分解が進みません。そして湿潤であるため、水分が蒸発せずに下方に流れます。そのためカルシウムやマグネシウムなどの塩基類は溶けて流れ出します。また、針葉樹林の落ち葉にはフルボ酸が多く含まれており、この酸が鉄・アルミニウムを溶かして、やはり下方へ流します。土の赤茶色は鉄・アルミニウムの成分です。結果、上層の土壌中にはケイ酸が残ることになり、これが白い色の土を作ることになります。これをポドゾル(ロシア語で「灰の下」の土)と呼んでいます。
ポドゾル: 亜寒帯気候の針葉樹林帯に分布する。ロシア語で「灰の下」の意。低温のため植物遺体の分解が進まない。蒸発量が少ないため水分は豊富で、鉄や塩類を下方へ流してしまう。漂泊作用により色は白っぽくなる。色:灰白色、肥沃度:低
亜寒帯冬季少雨気候(Dw)の分布
Df気候とDw気候をセットで見た場合、つまり亜寒帯(D)気候区は、北緯45度から北緯65度の辺りに分布します。南半球に亜寒帯気候が見られないのは、同じ南緯45~65度の緯度帯に大陸がほとんど存在しないからです。
Df気候区とDw気候区の違いを見てみると、Dw気候区はユーラシア大陸の東部、およそレナ川より東部の極東地域にしか分布していないことが分かります。Dw気候は亜寒帯冬季少雨気候と呼ばれ、夏の雨量が冬の10倍以上あるわけです。このような環境は、夏の季節風による降雨と、冬のシベリア高気圧による少雨によってもたらされます。北米大陸の東部にも同じような気候区が出現してもよさそうなものですが、ユーラシア大陸の方が圧倒的に東西に広いので、ユーラシア大陸に比べて北米大陸の方が大陸性の度合いが低くなります。冬季の平均気温も、極東シベリアの方が圧倒的に寒くなりますので、強い大陸性気候を示すのです。
Dwの分布 … ユーラシア大陸の東部(極東ロシア周辺)
亜寒帯冬季少雨気候(Dw)における人々の生活
亜寒帯気候区に見られるポドゾルという土壌は肥沃ではないため、農業には適していません。ポドゾルがロシア語で「灰の下」という意味であることからも推測できるように、シベリアでは伝統的に焼畑を営む人々がいたと思われます。また、伝統的には狩猟採集民が暮らしてきました。
現在は、焼畑や狩猟採集で暮らす人は姿を消し、もし第一次産業に従事するならば林業が中心となります。タイガは単一種もしくは少数の樹種からなる森林ですので、木が必要ならば効率よく伐採が可能です。この辺が、熱帯雨林における林業の効率の悪さとの違いです。
Dw気候区であるロシア東部は、北半球の寒極であるオイミャコンがあることからも分かるように、世界で最も寒い場所の一つです。この地域は新期造山帯も分布しているため、標高が上がれば更に気温は下がります。(オイミャコンでの観測では、データの上ではDf気候となります。ちなみにオイミャコンの標高は741mです。)このような土地になぜ都市があるのかというと、近くで金やアンチモニーといった地下資源がとれるからです。