西部大開発は、経済発展の著しい東部・臨海部に比べて発展の遅れた西部・内陸地域を開発するプロジェクトです。大きく分けると、鉄道系、水利系、石油・ガス系、電力系の4種類があります。本記事では、その中でも目玉プロジェクトとされる4つの計画を紹介します。
西部大開発が始まるまでの背景
文化大革命という名の権力闘争を主導した毛沢東が1976年に死去すると、その後継者となった鄧小平は改革開放に路線を変更し、1980年代以降、中国は急激な経済成長を遂げました。
鄧小平は「先に豊かになれる者から豊かになろう!」という先富論を唱え、国内の経済格差を一時的に是認します。しかしこの先富論には、「先に豊かになった者が、遅れた者を後で助けるから」という内容が含まれていました。
その「遅れた者を助ける」政策が西部大開発で、2000年の全人代で正式に決定されました。
この政策の目玉ともいえるのが四大プロジェクトとされる青蔵鉄道、西気東輸、西電東送、南水北調の四つです。次の章から、これら四大プロジェクトの内容を概観します。
ちなみに、国内の経済格差を是正しようという試みは中国だけの話ではありません。高校地理では、同じような政策として次のような政策が登場します。
中国 → 西部大開発
日本 → 全国総合開発計画(全総)
韓国 → セマウル運動
イタリア → バノーニ計画
青蔵鉄道
青蔵鉄道は、青海省の西寧とチベット自治区のラサを結ぶ鉄道を敷設するという計画です。2006年に全通しました。チベットのことを漢字一文字で「蔵」と書くので、青海とチベットの頭文字をとって青蔵(チンツァン)となります。
この鉄道路線が作られるまで、ラサに行きたい場合には、旅行者は飛行機で行くかバスで行くかという選択肢が一般的でした。私は2001年にチベット文化圏(中国、インド、ネパール)を旅行していますが、多くの外国人旅行者が四川省・成都の旅行代理店で飛行機のチケットと入域許可証を手に入れていた記憶があります。または1週間程かけてバスでチベット入りする旅行者もいましたが、これは時間に余裕がある人に限られました。現在は、青蔵鉄道のおかげで西寧や蘭州からでも1泊2日でラサへ行くことができます。
もちろん、ただチベットの観光収入を増やして地域開発するという、お花畑のような政策のはずがありません。「青蔵鉄道建設は政治決断であり、たとえ赤字になろうとも是が非でも成功させる」と江沢民国家主席(当時)がニューヨークタイムズに語っている(2001年)ように国家の悲願であり、漢民族のチベットへの移住やチベットの地下資源の獲得といった思惑があることは言うまでもありません。そうであったとしても、チベット自治区は開発され、住民は経済的には豊かになることでしょう。
西気東輸
文字だけで判断すると、「西の気体(ガス)を東に輸送する」という意味になります。具体的には、新疆ウイグル自治区でとれる天然ガスを、パイプラインで中国東部の都市域・工業地帯(特に上海)へ輸送するという計画です。2004年に全区間開通しました。現在は香港も含めた中国東部の広範囲へ輸送されており、中国の人々の生活を支えています。
新疆ウイグル自治区のウイグル族たちにどれだけの恩恵があるのかは分かりませんが、中国にとっては重要なプロジェクトに違いありません。中国は日本に次ぐ世界第2位の天然ガス輸入国(2018年)ですし、新疆ウイグル自治区は中国で最大の天然ガス埋蔵量をもつ(参照「中国の天然ガス事情」2003年)ので、国内の資源を有効利用するのは当然の話です。
西電東送
中国東部の都市部での電力不足を解消するために、西部・南部の山間地や大河川での水力発電、そして産炭地での火力発電で電力を供給するという計画です。
これには大きく次の三つのルートがあります。
北部通道 : 黄河中流域(内モンゴル自治区、山西省)の石炭で火力発電 ⇒ 北京、天津
中部通道 : 長江上流・中流域での水力発電(特に三峡ダム) ⇒ 上海、江蘇省、浙江省
南部通道 : 雲南省、貴州省、広西壮族自治区での水力発電 ⇒ 広東省(広州、深圳など)
南水北調
南水北調は、水が豊富な華中地域から、慢性的に水不足である華北地域等へ水を送る計画です。中国では「チンリン・ホワイ川線」と呼ばれるチンリン(秦嶺)山脈とホワイ川(淮河)をつなぐラインを境に、北は少雨、南は多雨地帯となっています。高校地理では、このチンリン・ホワイ川線が、年間降水量1,000㎜の等値線に近い位置を通ることが重要です。「北麦南稲」とか「南船北馬」という言葉があります。
南から北へ水を送るルートも大きく三つあります。
東線 : 長江下流域(揚州) ⇒ 黄河下流域(天津など)、山東半島
中央線 : 長江中流域の支流である漢江の丹江口ダム ⇒ 華北(北京、天津など)
西線 : 長江上流 ⇒ 黄河上流 (高地を通過する必要があり、計画の途上)