【チベット文化】中国だけじゃないチベット人の広がり【チベット仏教】

  • 2020.11.29
  • 2020.12.31
  • 文化
【チベット文化】中国だけじゃないチベット人の広がり【チベット仏教】

中高生にとってチベットは決して馴染みのあるテーマではありません。日本でチベット文化に触れることもあまりないでしょう。しかし宗教・文化の単元ではそれなりに重要なテーマでもあります。本記事では、チベット各地を旅した経験のある私個人の体験も交えながら、チベット族やチベット仏教について簡単に紹介します。

チベット族の特徴 

  「チベット人」と呼ぶ場合、真っ先に思い出されるのが中国におけるチベット人です。中国にはチベット自治区という省級の行政単位があるので、チベット自治区に住むチベット族のことをチベット人と限定して考えてしまう人もいるようですが、後述するようにチベット族の分布は自治区以外にも広がっています。 

チベット族の言語 

 高校地理では、民族を見る際に「語族」「語派」といった言語の系統を重視します。一般的なチベット族の言語は、シナ・チベット語族のチベット・ビルマ語派です。つまり、大きなくくりでは中国語に近く、ミャンマー(ビルマ)の言語とは更に近い関係にあることになります。 

チベット族の生活 

 高校地理におけるチベット文化の代表例がヤクの放牧です。ヤクは高地で生育が可能な牛の一種です。チベット人にとっては、肉、乳、毛、皮、荷役など生活に欠かせない家畜です。 

 チベット族の衣服は伝統的にヤクの毛や皮から作られており、靴は履かずに裸足で生活します。しかし最近は西洋文化が流入し、洋服を着る人も増えました。例えば私がアンナプルナ・サーキットと呼ばれるネパール内のチベット文化圏をトレッキングした際も、年齢が高めの人は裸足で山を歩いており、若い人はスニーカーを履いていました。このスニーカーは、外国人旅行者が捨てていった物を拾って再利用しているとのことでしたが、靴下が手に入らないとのことで、お土産屋の若い女性からは「土産の代金は要らないから、あなたが今履いている靴下をもらえないか」と言われたりもしました。燃料はヤクの糞を乾燥させたもので、私が滞在した中国・甘粛省の夏河というチベット人の多い都市の宿では、ストーブの中にヤクの糞を積み上げて暖房にしてくれました。 

チベット族の食事と農業 

 チベット料理の代表と言えばツァンパでしょう。これは日本でいう「麦焦がし」のことで、大麦を煎って粉にしたものです。伝統的なチベット人は、腰にこの大麦粉の入った袋を下げていて、食事のときにはヤクの乳から作ったバターを混ぜて、手でこねて団子を作って食べます。私も中国のチベットで食べたことがありますが、慣れていないせいか、美味しいとは思いませんでした。他に、トゥクパという日本のうどんのような料理や、モモという小籠包のような料理が有名です。ヤクの肉の入ったモモは、肉汁が溢れ出て最高にジューシーです。ちなみに、腰の袋に入っているヤク・バターですが、これはお茶に入れたり、ロウソクにしたりもします。お寺では日本でいうお賽銭のような感覚で、バターを供養することもあります。 

 伝統的なチベット男性は腰に刀をぶら下げており、またヤクの干し肉も腰からぶら下げていて、小腹が空いたときにはこの干し肉を刀で削って食べます。このように、チベット人の食生活にヤクと大麦は欠かせません。ちなみに、外国人旅行者もチベット人を真似て、刀を購入し腰に下げている人がいますが、空港で揉めている姿を見たことがあるので、現地を離れる際に手放した方が無難でしょう。 

 チベットは標高が高いため、栽培が可能な作物が限られています。伝統的には高地でも栽培が可能な大麦(ハダカムギ)が農業の中心ですが、比較的標高の低い地域では小麦やトウモロコシも栽培します。 

 チベットの農牧業については次の論文が参考になります。 

阿部治平(1983)「チベット高原の農牧業分布と最近の動向」人文地理

チベット仏教の特徴 

 宗教学的に正しいのかは分かりませんが、高校地理では仏教を大きく「上座仏教」「大乗仏教」「チベット仏教」の三つに分けて扱っています。教科書には大乗仏教と上座仏教しか登場しませんが、入試問題等ではモンゴル族がチベット仏教徒であることを問われることがあるので、やはりチベット仏教まで含めて理解する必要があるでしょう。 

 チベット仏教の教義について語るほどの知識が私にはありません。本章では、チベット仏教の表面的に見て取れる内容についてお伝えします。 

 高校地理ではチベット仏教といえばチベット自治区の主都ラサ、そしてポタラ宮が写真付きで紹介されるので有名となっています。このポタラ宮は歴代のダライ・ラマが居住する宮殿ですが、現在のダライ・ラマ14世はインドのダラムサラにあるチベット亡命政府にいます。また、そもそもダライ・ラマというのはチベット仏教の宗派の一つゲルク派の最高指導者であり、チベット仏教全体の最高指導者というわけではありません。ただし、ゲルク派が最大の宗派ですので、実質的にチベット仏教の代表者と言っても過言でありません。 

 私がチベット各地を旅行して見聞きしてきた範囲でチベット仏教を紹介すると、五体投地は大きな特徴の一つです。バスでチベットを移動中、道路を五体投地しながら歩いている巡礼者を見かけることがあります。一度に2mほどしか前へ進めませんが、ローラーボードを利用して、一度の五体投地で数m進むツワモノもいます。 

五体投地

 お寺では、マニ車を回しながら寺の周りをグルグルと歩く信者をよく見ます。マニ車はお経が書かれた器具で、手で持って回すものから、建物の柱くらいの大きさのものまで様々あり、寺だけでなく、村の入り口などにも設置されています。小さな村の寺は僧侶が駐在していない場合もあるため、参拝したい場合には、寺の鍵を持っている人を探す必要があります。少しばかり布施を渡せば寺を開けて見せてくれます。山奥の小さな村の寺を開けてもらい、薄暗い中でチベット仏教のややドロドロした仏像を眺めるのは、旅の醍醐味ともいえます。 

マニ車

 インドのシッキム州で偶然日本人のチベット仏教僧と知り合い、一晩語ったことがあります。その僧が言うには、「チベット仏教の修行を極めれば念力で人も殺せる」とのことでした。私が「ではなぜ中国に負けたのだ。念力で中国を倒せばよかったのでは」と発言したら、「仏教の力を戦争に使ってはいけないんだ」と怒られてしまいました。 

 チベット仏教については、黄檗宗の僧、河口慧海が書いた『チベット旅行記』が参考になります。Kindleで無料で読めます。長い本ですが「明治時代のバックパッカー旅行記」といった感じで一気に読めます。

 

 なお、チベット仏教は中国の文革以降、中国政府から迫害を受けてきました。よって、伝統的なチベット仏教の寺院を見たければ、チベット自治区よりも他の中国の省やインド、ネパールの方が良いかもしれません。 

チベット族・チベット仏教の分布 

   チベット系民族の分布は、中国のチベット自治区だけでなく、その周辺に広がっています。中国では、青海省全域、甘粛省の山地、四川省の山地、雲南省の山地。ネパールなら北部のヒマラヤ山脈一帯。インドならシッキム州とラダクが有名で、ダージリンの辺りでもチベット仏教の寺をよく見かけます。ブータン全域。 

  

 中国:チベット自治区全域、青海省全域、甘粛省の南西部、四川省の西部、雲南省の北西部 

 ネパール:北部の山間地 

 インド:シッキム州全域、ラダク、ウェストベンガル州・ヒマーチャルプラデシュ州・アルナチャルプラデシュ州の山間地 

 ブータン:全域 

  

以上がチベット系民族の分布ですが、これにチベット仏教の分布を追加すると、モンゴル系民族が加わります。具体的には、モンゴル、中国の内モンゴル自治区、ロシアに住むモンゴル系民族です。 

まとめ 

 本記事では、やや私の個人的な体験に基づく話が多くなってしまいました。チベット文化は日本の文化に近いこともあり、馴染みやすいものだと思います。そして生徒たちが興味を持ってくれる単元であることは間違いありません。(チベットで見聞きしてきた、ここに書けないような話も多いので……) 

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