環境問題の一つである酸性雨は、地理の授業だけでなく、現代社会、理科、家庭科、英語などの教科でも扱われており、その重要性がわかります。では、あらためて地理で学ぶ必要は無いかと言えば、そんなことはありません。地理特有の酸性雨ネタというものがあり、テスト・入試で問われるのはその地理特有の部分だからです。本記事では、地理で扱われる酸性雨のネタについて紹介していきます。
酸性雨とは
pH5.6以下の雨を酸性雨といいます。そもそも自然の状態の雨は酸性ですから、アルカリ性雨にすればよいというものでもありません。自然の状態に比べて更に酸性の度合いが高い雨が酸性雨です。
酸性雨 = pH5.6以下の雨
酸性雨の原因
大気中の硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)が雨に溶け込むことで、雨の酸性度合いを高めます。
硫黄酸化物や窒素酸化物は、化石燃料の燃焼や火山活動によって大気中に放出されます。火山活動は自然現象ですので、今回問題とされるのは人為的な理由である化石燃料の燃焼ということになります。
化石燃料の燃焼は、主に自動車や工場の排ガスが原因とされています。ですので、この排ガスを減らす、もしくは処理を施して排出することが求められます。
自動車や工場の排ガス ⇒ 硫黄酸化物・窒素酸化物 ⇒ 酸性雨
酸性雨の被害
シュヴァルツヴァルトにおける被害
酸性雨による被害として最も象徴的なのが、ドイツのシュヴァルツヴァルトという森の木が枯死してしまったことです。シュヴァルツヴァルトはドイツ語で「黒い森」という意味だけあって、木が生い茂っていたわけですが、これが酸性雨で枯れてしまい、はげ山になってしまったのです。私が高校生のころの地理の教科書には、この禿げ上がった森の写真が載せられており衝撃を受けたものです。現在は、Google Mapやストリートビューで見る限りでは木が生えていますので、酸性雨対策と植林が進んだのでしょう。
シュヴァルツヴァルトの枯死の件では、この森の西側に位置する都市が危機感を覚えました。というのも、排気ガスは偏西風に乗って東へ移動するからです。この西側の都市として高校地理で登場するのが、ドイツのフライブルク、フランスのストラスブールです。この2つの都市については後述します。
高校地理における酸性雨ネタの重要ポイントの一つが、ここです。
湖の生態系破壊
次に、酸性雨が湖の酸性度を高め、湖の生態系を壊してしまうという問題が起こります。酸性雨が降ると、土中の金属成分を溶かして河川に流出させてしまいます。とくにアルミニウム・イオンは多くの生物に毒性を示すので、湖の生物が死んでしまうという現象が見られます。
彫刻の溶解
最後に、高校地理でよく語られるのが、銅造や石造の劣化です。ヨーロッパは、屋外に石造が多く、また芸術的で精密な装飾が施された石造建築物が多いのですが、これらが酸性雨によって溶けてしまうのです。日本でも、鎌倉大仏などで劣化が見られました。森ならば植林、湖ならば中和剤という対策が取れますが、過去の芸術家が作った作品は作り直すことができません。
酸性雨に対する国際的取り組み
長距離越境大気汚染条約(1979年採択)
酸性雨の恐ろしい点は、排ガスを多く出している国だけでなく、周囲の国にも被害を与えてしまうことです。排ガスを出す国は、ある意味で自業自得とも言えるわけですが、排ガスを出していないのに被害を受ける国があるのは残念ですよね。
この条約は、国連欧州経済委員会で1979年に35か国で採択されたものです。現在は51か国が参加していますが、欧米の国々が中心となっており、日本は参加していません。
大気汚染防止政策を参加国に求め、酸性雨の研究や調査の実施、情報交換を推進するという内容です。
ヘルシンキ議定書(1985年に署名)
名称を省略しないで表現すると、「1985年 硫黄排出削減ヘルシンキ議定書」となります。この議定書の内容は、「1993年までに硫黄の排出を30%以上減らそう」というもので、25か国が参加しました。この議定書は、1979年の長距離越境大気汚染条約を受けて作られたものですので、やはり参加国は欧米諸国で、日本は参加していません。
オスロ議定書(1994年に署名)
ヘルシンキ議定書に参加した国々では、1993年までに30%削減という目標をほぼ達成できました。そこで、今回は「1994年 更なる硫黄排出を減らすオスロ議定書」という名前で29の国・組織が参加しています。
東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(1993年初会合)
アジアでも酸性雨に対する取り組みを強化しようと、日本の環境庁(当時)が提唱して作られました。日・中・韓を含むアジアの13か国が参加しています。
酸性雨対策としてのパークアンドライド
パークアンドライドは「駐車そして乗車」という意味です。具体的には、自家用車は都市や自然公園の外の駐車場に駐車し、別の公共交通機関に乗ろうというものです。日本でも全国各地で実施されています。高校地理では、先述したシュヴァルツヴァルトの反省から、その西部に位置するドイツのフライブルクとフランスのストラスブールの事例が有名です。とくにストラスブールは、1994年からトラム(路面電車)の運行を始めたことが重要となります。
パークアンドライドといえば
フライブルク(ドイツ)
ストラスブール(フランス)
まとめ
酸性雨は環境問題の一つとして、複数の教科で重複して学習する単元です。しかし高校地理特有の重要ポイントがあります。最後にまとめてみます。
ポイント①:排ガスが偏西風で東へ流れること。西欧の排ガスで東欧が被害を受ける。
ポイント②:シュヴァルツヴァルトの森が枯死したことで、フライブルクやストラスブールではパークアンドライドなどの対策を取った。
以上です。最後まで読んでいただき有難うございました。