風で運ばれて堆積した砂が土壌化したものをレスと呼びます。風積土と言ってもよいでしょう。本記事では、レスが作られる原因、そしてレスが肥沃な理由を学びます。しかし同じようにレス(風積土)といっても、場所によって意味合いが違ってきますので、地域に分けて説明をしていきます。
レスとは
レスは風積土とも言われるように、風で飛ばされて堆積した砂が土壌化したものです。では、風で飛ばされる砂とはどのようなものでしょうか。それは、粒の小さい砂ということです。石や砂は、粒の大きさによって次のように区分されます。
(粒大) 礫 > 砂 > シルト > 粘土 (粒小)
粒が小さいほど風で飛ばされやすくなるわけですから、レスはシルトや粘土で構成されます。しかし中学や高校の授業で説明する際に、砂やシルトを区別し始めると、話が本筋から離れてしまいます。よって、「風で運ばれた砂」という説明で十分でしょう。
次に、そのような粒の小さな砂はどこにあるのか。一つは砂漠の砂です。砂漠では、岩石の風化によってきわめて小さな粒の砂が作られます。これは中国でのレスが該当します。もう一つは、氷河によって削られてできた砂です。これはヨーロッパや北アメリカに見られます。それぞれ事情が異なるので、次の章から別々に説明をしていきます。
レスが肥沃な理由
レスは、なぜ肥沃な土壌と言われるのでしょうか。これを考えるためには、そもそも砂が風で飛ばされるとはどういうことかを知る必要があります。
砂が砂であり続け、しかも風で飛ばされるということは乾燥している証です。レスのもととなる砂は、砂漠か氷河が原因だと先ほど書きました。砂漠が乾燥しているのは分かります。氷河に関していえば、氷期と呼ばれる大陸氷河が発達していた時代には、水分は多くが氷となっているため、地球は全体的に乾燥していたわけです。
乾燥しているということは、雨が少ないということです。雨が少ないということは、土中の塩基類が溶脱しないということです。土中の塩基類(カルシウムとかマグネシウムとか)は、植物にとっての栄養です。つまり土は肥沃になるというわけです。
更に半乾燥地帯では植生が草原となります。この草原の草が土に還り、土の腐食を増やすわけですね。この理屈で、チェルノーゼムなどの黒色土が作られます。
中国におけるレス
中国におけるレスは、黄土高原を形成しています。その範囲は、西は甘粛省から東は山西省の辺りまで広がっています。この黄色い砂が原因となって、黄河の水は黄色く濁るわけです。
黄土高原のレスはどこから運ばれてきたかというと、ゴビ砂漠から風で飛ばされてきたものです。レスは肥沃になるので、中国の文明が黄河周辺で生まれたことにも関係しています。
黄土高原の土壌は「世界で最も侵食しやすい土壌」と評されていて、近年は中国が土壌保全に努めています。以前、私が甘粛省の臨夏(リンシア)を旅していた際に見た風景は、まさしく上記の通りで、山の斜面に植生が無いため侵食がもの凄いスピードで進んでいることが見て取れました。
中国のレス ⇒ 砂漠から風で運ばれてきた
ヨーロッパ・北アメリカにおけるレス
ヨーロッパや北アメリカでは、氷床(大陸氷河)の盛衰とレスの形成が関係しています。氷期に氷床が拡大すると、地盤が侵食されて粒の細かい砂が増加します。氷期の気候は乾燥するため、この砂が風で飛ばされて堆積していきます。間氷期には、より温暖で湿潤になりますので、堆積した砂が土壌化して現在のレスができあがったのです。レスの地層を調べることで昔の環境が再現され、氷河の盛衰の資料となるのです。
ヨーロッパにはレスが広く分布しており、特にイギリス南部~フランス北部~ドイツ~ポーランド~ウクライナ南部に広がっています。これはスカンディナヴィア氷床(バルト海周辺に存在した大陸氷河)の拡大によるものです。高校地理で「最も肥沃な土」と評されているチェルノーゼム(チェルノジョーム)もレスからできています。
また、ハンガリー~セルビアのドナウ川周辺、そしてイベリア半島にも分布します。高校地理では、ハンガリーのレスが紹介されることが多いですね。ハンガリーでレスが分布する場所は、プスタと呼ばれて穀倉地帯となっています。
北アメリカでは、コーンベルトの辺りにレスが分布しています。これはローレンタイド氷床(ハドソン湾周辺に存在した大陸氷河)の拡大によるものです。チェルノーゼムと同様に肥沃な土として授業に登場するプレーリー土もレスからできています。
欧米のレス ⇒ 氷河に侵食された砂が風で運ばれてきた
まとめ
高校生に地理を教えていて感じるのですが、土壌分野の学習を飛ばしてしまう生徒が多いようです。チェルノーゼムやレグール土は有名なのか、比較的記憶に定着しているようですが、レスについては定着率が悪いように感じます。高校地理においては、中国のレスとヨーロッパのレスを理解していれば十分だと思います。これもただの暗記ではなく、古環境、気候、地形、農業などが関連してきますので、総合的に学びたいですね。