ケッペンの気候区分の中で最も大切な気候区はどれかと聞かれたら、この地中海性気候だと答えます。夏季少雨という、地球では珍しい気候区がなぜ生まれるかを理解できれば、他の気候区のことも理解できるからです。また、地中海周辺(南欧~北アフリカ)以外に地中海性気候が分布する場所については、受験・試験で頻出のテーマです。必ず大陸ごとにおさえておきたいところです。
地中海性気候(Cs)の特徴
ケッペンが地中海性気候に付けた記号はCsです。Cは温帯、つまり「熱すぎず寒すぎず」ということ。sはsommer trocken、これはドイツ語で「夏に乾燥」という意味です。言い換えると「冬に雨が降り、夏は少雨」ということです。
もう少し具体的に言い換えます。「熱すぎず寒すぎず」とは「最寒月平均気温が-3度以上18度未満」のことで、「温かい」ということです。「冬に雨が降り、夏は少雨」とは「最少雨月降水量(夏)が30㎜未満で、その3倍以上の降水が最多雨月(冬)にある」ということです。
C ⇒ 温帯 = 最寒月平均気温 が -3度 以上 18度未満
s ⇒ 夏季少雨 = 「冬の雨量」が「夏の雨量」の3倍以上 かつ 夏の最少雨月降水量が30㎜未満
最少雨月降水量が30㎜未満という条件を付けないと、日本の日本海側のような冬に降水量の多い地域がCsに区分されてしまいます。
Cs(夏季少雨)の逆の気候となるCw(冬季少雨)の場合、3倍ではなく10倍の雨量差が必要となるので注意が必要です。
冬に雨が降り、夏に降らないような気候がなぜ生まれるのでしょうか。これは地球の地軸が公転面に対して傾いていることが原因です。
地球の地軸に傾きが無ければ、そもそも季節というものは生まれないのです。
Cs気候区が分布する緯度域の場合、夏には亜熱帯高圧帯(中緯度高圧帯)が、冬には亜寒帯低圧帯(寒帯前線帯)の影響下に入ります。
夏 ⇒ 亜熱帯高圧帯 … 乾燥
冬 ⇒ 亜寒帯低圧帯 … 湿潤
地中海性気候(Cs)の雨温図
まず気温を見ます。最寒月平均気温が-3度以上18℃未満であること。これで温帯と判断します。
次に雨の降り方がs型であることを読み取ります。北半球なら、気温が山型で降水量が谷型。南半球なら、気温が谷型で降水量が山型。よって、イメージとしては、北半球ならダイヤモンド型、南半球ならエックス型といったところです。
夏と冬の降水量を比較し、冬の最多雨量月の降水量が、夏の最少雨量月の降水量の3倍以上あればCsとなります。
地中海性気候(Cs)の植生
植物にとって乾燥は天敵です。Cs気候の夏は、砂漠を作っている亜熱帯高圧帯の影響下に入るわけですから、砂漠同然なわけです。よって地中海気候では、この乾燥した夏を耐えられる植物が生きのびます。
乾燥しているからといって落葉してしまうと、せっかくの夏の太陽光が無駄になります。光合成をして、かつ体内の水分を保持する必要があります。そこで植物は、葉の表面を肉厚にするよう進化したのです。このような植物を硬葉樹といいます。
硬葉樹:夏の乾燥に耐えるために、小さくて肉厚で硬い葉をもつ樹木。地中海性気候の地域に見られる。常緑広葉樹林。
硬葉樹林の樹種
地中海性気候区で見られる植物のうち、高校地理に登場する樹種をまとめます。地中海式農業との関連が強い樹木で、その多くは人工的に植林・栽培されているものです。
コルクガシ:幹の表面の層を剥がし、コルクとして使用する。一度コルク層を剥がすと、次に収穫できるまでに10年程度を要する。コルクの用途としては、ワイン瓶の栓があげられる。
オリーブ:果実を塩漬けにして食用としたり、生の果実から絞った果汁をオリーブオイルとして使用する。日本では小豆島(香川県)産が知られる。ちなみに日本におけるオリーブの生産(2015年)は、1位の香川県がシェアの9割を占める。国連旗にデザインされた葉はオリーブの葉。
月桂樹:葉を乾燥させたものをローリエといい、香辛料として料理に用いる。月桂樹の葉で編んだ月桂冠は、戦いの勝者や偉人にささげられる。
地中海性気候(Cs)の土壌
地中海性気候における夏の乾燥は、乾燥帯並みです。私も8月にスペインを旅行したことがあるのですが、砂漠にいるのではないかと錯覚したほどです。
土壌に関して言えば、「地中海性気候の土壌はこれ」とはっきり言えません。ですが、乾燥帯に近い気候の特性から、ステップ気候にもみられる栗色土が分布する場所もあります(北アフリカ、イベリア半島、チリ、オーストリア南部)。
栗色土:表層に腐食層があるが厚くはない。比較的肥沃ではあるが、安定して降水の得られる地域ではないため、農業をするには灌漑を必要とする。
地中海地方の間帯土壌
間帯土壌は、地形や岩石の影響で作られる局地的な土壌です。よって、本来は気候区分の説明の中で紹介するべき土壌ではないのかもしれません。しかし、次にあげる間帯土壌は地中海地方に特有にみられるものですので、ここで紹介します。
テラロッサ:イタリア語で「赤い土」。石灰岩が風化して作られる。表層の腐食層は薄く、肥沃ではない。これは、地中海性気候の植生が常緑樹で草地が少ないという理由による。
地中海性気候(Cs)の分布
地中海性気候を作るのは、夏の亜熱帯高圧帯と冬の亜寒帯低圧帯です。ですので、緯度的には35~45度の辺りで、南北40度辺りが中心となります。
また、大陸東岸は季節風の影響で夏に降雨が見られます。よって、地中海性気候の分布は基本的に大陸西岸となります。
Csの分布 … 大陸西岸の南北35~45度の辺り
ヨーロッパ⇒地中海沿岸(ポルトガル、スペイン、フランス南岸、イタリア、ギリシャ)
アジア⇒トルコ~地中海東岸。
アフリカ⇒モロッコ~アルジェリア~チュニジア、南アフリカ共和国の南端
北米⇒アメリカ合衆国西岸(シアトルですらCs気候!)
南米⇒チリの一部
オセアニア⇒オーストラリア南部
地中海性気候(Cs)における人々の生活
偶然ですが、地中海性気候となる地域の多くではキリスト教が信仰されています。地中海性気候に適応して発達した地中海式農業は、冬に小麦を、夏にはブドウ、オリーブ、柑橘類などを栽培します。キリスト教徒にとってパンとブドウ酒は宗教的に大切なものですから、うまくできていますよね。Cs気候区はワインの産地としても有名です。