TOマップは中世キリスト教の世界観が反映されている

  • 2020.02.14
  • 2020.12.06
  • 地図
TOマップは中世キリスト教の世界観が反映されている

TとOの二文字で作られた世界地図、TOマップ。まるで最古の地図のようなシンプルさですが、これは中世ヨーロッパのものです。このシンプルな地図には何が描かれているのか、どんな世界観が反映されているのか、こういった疑問に答えます。

TOマップの呼び方

 TOマップ(ティーオー・マップ)と呼びます。
 図の外周のO字と、図内に描かれた川や海であるT字の組み合わせでできているからです。
 TとOを逆にして、OTマップと呼ぶこともあります。TO図とか、OT図という呼び方もあります。

TOマップの読み取り

TOマップ OTマップ TO図

特徴① 東を上にする

 TOマップでは東を上にします。一般的な地図は、北を上にすることが多いので注意が必要です。
 東を上にする理由は、旧約聖書の創世記から読み取れます。神がエデンの園を東の果てに作ったという記述があるからです。

 東が上 ← エデンの園は東の果てにある

特徴② 中心は聖地エルサレム

 TOマップの中心、つまり円の中心点には、キリスト教の聖地エルサレムが描かれています。エルサレムは、イエスが処刑され復活を遂げた場所とされていますので、キリスト教徒にとっては最も重要な土地となります。

 中心はエルサレム ← キリスト教の聖地

特徴③ T字は川と海

 T字は、3つの旧大陸を分ける境界線です。
 中心から見て下方(西)へ伸びる線が地中海です。ヨーロッパとアフリカの境界線です。
 中心から見て右方(南)へ伸びる線がナイル川(または紅海)です。アジアとアフリカの境界線です。
 中心から見て左方(北)へ伸びる線がドン川です。ヨーロッパとアジアの境界線です。
(注:これら境界線とされた地形は、現在の境界線とは異なります)

 T字は … 下 → 地中海
       右 → ナイル川
       左 → ドン川

特徴④ 外周は海

 外周は海です。オケアノスと呼ばれます。英語のオーシャンのことです。
 この海の外側には何もないわけではなく、外の陸地が存在すると考えられています。

 外周は海 → 海の外には別の陸地

TOマップの背景にある世界観

 ヨーロッパにおいては、古代ギリシャ・ローマ時代に科学が発達しました。プトレマイオスの世界図のように、科学的な知識に基づいた地図が作られました。ここでは、「地球は丸い」という科学的根拠が根本にありました。
 しかし、西ローマ帝国の崩壊と民族の大移動によって、ローマ帝国に受け継がれた文化・伝統が失われてしまいます。この動乱期をへて、人々はキリスト教会に救いを求めるようになったわけです。
 キリスト教会は古代科学を異端だとして排撃し、聖書こそが正しいとする価値観を作り出したのです。
 中世のキリスト教会においては、地球球体説は否定されました。もし地球が丸いなら、自分たちの足の下(地球の裏側)には、別の人々が暮らしていることになります。これは教会としては許せないことだと見なされたのです。

TOマップ以前、以後

TOマップ以前

 古代ギリシャ時代のエラトステネス(前275頃~前194頃)が球体としての地球を測量し、若干不正確ではあるものの、地球の大きさを導き出しました。
 古代ローマ時代にはプトレマイオス(100頃~170頃)という地理学者が、球体地球観にもとづく科学的な地図を作成します。現在でいう円錐図法で作られています。しかし、ヨーロッパ以外の土地に対する知識があいまいであったため、ヨーロッパから離れるほど不正確なものとなっています。

プトレマイオスの世界図

トレミー図

TOマップ以後

 キリスト教会の影響下で古代科学が衰退したヨーロッパでしたが、十字軍の遠征を契機にイスラム世界の進んだ知識が入り込んできます。これにより地球球体説も再び認められるようになり、後のコロンブスの大西洋横断へとつながっていくわけです。 

TOマップ型の地図

 ヘレフォード図:1290年に作製。動物の皮に描かれた世界地図。「マッパ・ムンディ」と呼ばれる地図の一つ。「マッパ」は布、「ムンディ」は世界の意。イギリスのヘレフォード大聖堂のものだったが、有志の基金で買い取られ保護。

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