ステップ気候は乾燥帯ですが、その肥沃な土壌のために「世界の穀倉地帯」と呼ばれるほどの食糧生産地帯となっています。受験地理の頻出単語でトップ級ともいえる、チェルノーゼムが分布するのもステップ気候です。本記事では、乾燥限界の求め方から雨温図の読み取り型まで、ステップ気候についてまとめています。
ステップ気候(BS)の特徴
ケッペンがステップ気候に付けた記号はBSです。Bは乾燥帯、つまり「乾燥による無樹木気候」で、SはSteppe、これはロシア語で「草原」という意味です。
「乾燥による無樹木気候」になるかどうかは、乾燥限界の計算式で判断します。これは後の章で説明します。そして乾燥気候(B)には砂漠気候(BW)とステップ気候(BS)の二つがありますが、これらも乾燥限界の式で判別します。ケッペンは植生をもとに気候区分を作ったのですから、「樹木がないからB」、「草は生えているからBS」で結構なわけですが、それを数値化するために乾燥限界の式を使うわけです。(実際は、ステップ気候には低木・灌木が生えていることもあります)
B … 乾燥帯 = 乾燥のため樹木がない
S … 草原 = 草は生えている
乾燥限界の計算式
ここからは乾燥限界の計算式を説明します。しかし高校地理・受験地理のレベルで、計算式が無いと答えられないような出題はされないでしょうし、そのような出題をするべきではありません。試験本番では、後述するもっと簡易的な方法でBWやBSを判別していかないと時間がかかりすぎてしまいます。ですので、細かいことを気にしないのであれば、この章については読み飛ばしていただいても構いません。
手順1 f型・s型・w型の判別
1年間を半分に区切ります。「4月~9月」と「10月~3月」です。
↓
北半球ならば、「4月~9月」を「夏」、「10月~3月」を「冬」とします。
南半球ならば、「10月~3月」を「夏」、「4月~9月」を「冬」とします。
↓
年降水量のうち、「夏」に70%以上の降水量が集中していれば「w型」
年降水量のうち、「冬」に70%以上の降水量が集中していれば「s型」
上記以外の場合は「f型」 になります。
手順2 乾燥限界値の判定
次の方法で乾燥限界値(R)を算出します。 t…年平均気温(℃)
s型 → R=20t
f型 → R=20(t+7)
w型 → R=20(t+14)
手順3 乾燥気候(B)になるかの判定
乾燥限界値と年降水量(㎜)を比較します。
R … 乾燥限界値
r … 年降水量(㎜)
R > r ならば乾燥気候(B)
R ≦ r ならばそれ以外の気候(A、C、D、E)
手順4 砂漠気候(BW)とステップ気候(BS)の判別
0.5R > r ならば砂漠気候(BW)
0.5R ≦ r < R ならばステップ気候(BS)
注)教科書・参考書によって、R・r・tといった記号や計算式に表記上の違いがありますが、内容は同じです。
簡易的な方法での乾燥気候の判別
前章での乾燥限界の計算式を使えば、確かに厳密な気候区分の判別が可能です。しかしながら、出題方法によっては平均気温や年間降水量の表記が無い場合もあります。また、限られた試験時間の中で乾燥限界の計算までやっていたら、時間が足りなくなるかもしれません。
そこで、一応の目安として
砂漠気候(BW)…年降水量250㎜未満
ステップ気候(BS)…年降水量250~500㎜(二宮書店)
年降水量250~750㎜(帝国書院)
という数字を紹介しておきます。二宮書店と帝国書院で数字のばらつきがありますが、あくまで目安ですので、500~750㎜だと乾燥気候になったりならなかったりということです。
この方法で雨温図から気候区の判別をする場合、各月の降水量(棒グラフ)の数字を大雑把に読み取り、足し算で年降水量を導き出して判断をします。
ステップ気候(BS)の雨温図
この雨温図はパキスタンのラホールという都市のものです。年間総降水量は613.7㎜ありますので、乾燥限界の計算式を使わないと乾燥帯になるか分かりません。
手順① 6月が最高気温で「北半球」
夏に488.8㎜の降水がある(79.6%)ので「w型」
手順② R=20(t+14) の計算式を使うと、
年平均気温(t)は24.8℃ですので、
乾燥限界(R)は776
手順③ 年降水量613.7㎜は、乾燥限界776よりも少ないので乾燥帯(B)
手順④ 年降水量613.7㎜は、乾燥限界の半分388よりも多いのでステップ気候(BS)
となり、確かにステップ気候です。しかし、試験本番にこのような計算をしている余裕はありません。そこで目算で年間降水量を判断し、250~500㎜もしくは250~750㎜でステップ気候だろうと判断します。
地理の試験のときに、単発で「1つの雨温図を読み解いて気候区を答える」問題というのは考えにくく、複数の雨温図を比較する中で解答するという出題になるでしょうから、それほど心配する必要はありません。
ステップ気候(BS)の植生
樹木はないものの、草は生えているのがステップ気候です。よって、植生は草原となります。
本来のロシア語でのステップには丈の短い短草草原というニュアンスが含まれています。しかし、ステップ気候のプレーリーには丈の長い長草草原がみられるので、ステップ気候だからといって常に短草草原とは限りません。また低木が生えていることもあります。
しかし例外ばかり追い求めていると基礎基本がおろそかになりますので、まずは「ステップ気候は短草草原」と覚えるとよいでしょう。
ステップ気候(BS)の土壌
乾燥気候と聞くと、肥沃な土壌とは縁が無さそうな気がする人もいるでしょう。ところが、高校地理で登場する土壌の中では最も肥沃な土壌として知られるチェルノーゼムは、このステップ気候の成帯土壌です。
ステップ気候は半乾燥地帯ですので、ある程度の雨(250~500または750㎜)が降ります。しかも、この雨は熱帯の雨と違って土砂降りの雨ではありません。よって、熱帯と違って土中の栄養分が流出することがありません。さらに、植生は草原地帯ですから、毎年草が枯れて土の栄養が加算されていきます。
高校地理では土壌の色と肥沃度が重要となりますが、このタイプの土壌は黒色で、黒色土もしくは黒土と呼ばれます。また、とても肥沃な土ですので、地域によっては固有名詞で呼ばれることがあります。
ステップ気候でも、より乾燥している地域では植物が少ないため、黒色土よりは肥沃度が落ちる栗色土という成帯土壌がみられます。
黒色土の呼ばれ方
黒色土(黒土)は、地域によって次のように呼ばれることがあります。
[ウクライナ]チェルノーゼム(チェルノゼム、チェルノジョーム):ロシア語で「黒い土」の意。
[アメリカ]プレーリー土
[アルゼンチン]パンパ土
ステップ気候(BS)の分布
ステップ気候は半乾燥の気候です。よって、砂漠気候から湿潤気候に移り変わる境界に、ステップ気候は多くみられます。ステップを「コールドステップ」と「亜熱帯ステップ」に分けるケースもありますが、高校地理では分けて覚える必要はありません。念のため本記事では分けて記述します。
コールドステップ
本来は「ステップ」と言った場合、こちらのコールドステップを指しています。南緯・北緯40~50度のあたりに主に分布します。
アジア:中央アジア~中国、トルコ
ヨーロッパ:ウクライナ~ロシア
北アメリカ:アメリカ~カナダのプレーリー地帯
南アメリカ:パタゴニア
亜熱帯ステップ
南緯・北緯20~30度のあたりに主に分布するステップです。そして、ヨーロッパの地中海性気候の地域でも、ステップに似たような植生になることがあります。
アジア:大インド砂漠の周辺、シリア
北アメリカ:カリフォルニア州~テキサス州
オセアニア:オーストラリア
(ヨーロッパ:シチリア島、ポルトガル南部、ギリシャ、スペイン東部)
ステップ気候(BS)における人々の生活
乾燥気候と聞くと、人間にとって住みにくそうな土地に思えますが、黒色土のような肥沃な土壌がひろがる土地ならば話は別です。ウクライナからロシア周辺のチェルノーゼム地帯、アメリカからカナダのプレーリー、アルゼンチンのパンパは、小麦の大生産地となっています。(最近は、ウクライナのチェルノーゼム地帯で土地の劣化が進行しています)
一方、降水量の少ないステップ地帯では、自然の草を利用して遊牧が行われています。モンゴルの草原における遊牧の様子は、試験では写真や絵で出題されるお決まりのパターンとなっています。