ケッペンの気候区分の中では比較的マイナーなAm気候ですが、分布が限られているためか、どこに分布するかを問われることがあります。大枠はAf気候と似た特徴を有していますので、分布の違いを明確にしておきましょう。
熱帯モンスーン気候(Am)の特徴
ケッペンが熱帯モンスーン気候(弱い乾季のある熱帯雨林)に付けた記号はAmです。Aは熱帯、つまり「年中高温」で、mは「中間(mittel)」という意味です。これは何の中間かといいますと、「AfとAwの中間」ということになります。Afには乾季がなく、Awには明瞭な乾季があります。その中間ということですので、Amは「弱い乾季のある」熱帯雨林気候という名称がつくわけです。しかし受験生の立場としては、文字数の多い単語を書くのも面倒ですし、「mはモンスーンのm」と覚えてしまった方が楽でしょう。
ちなみに「年中高温」とは「最寒月平均気温が18度以上」のことで、「冬がない」ということです。たとえ弱いとしても乾季があるということは、具体的には「最少雨月の降水量が60㎜を下回る」ということです。もしも60㎜以上となると、Afに区分されてしまいます。
A … 熱帯 ⇒ 年中高温 = 最寒月平均気温18度以上
m … 中間 ⇒ AfとAwの中間 = 弱い乾季がある
「明瞭な乾季」と「弱い乾季」の判別ですが、一概に乾季の降水量が少なければ「明瞭」というわけでもなく、年間総降水量と最少雨月降水量を比較して導き出されます。教科書でも資料集でも必ず出てくる次の図を用いるわけですが、計算式としては
y = -0.04x + 100
y … 最少雨月降水量
x … 年降水量
という式が使われます。しかし、この計算式を使わなければ答えられないような微妙な判別の出題はめったにされないでしょう。そのような出題はするべきではありません。
雨は短時間にまとめて降ることもあり、これをスコールと呼びます。
弱い乾季が発生する理由は、場所によってはモンスーン(季節風)の影響によるものです。ですので、熱帯モンスーン気候という呼び方もされます。
スコール:狭義には「急な突風」のことを言いますが、一般的には「熱帯地方にみられる強風を伴う急な大雨」のことを意味します。高校地理・受験地理では、後者のような認識で問題ありません。日本の夕立にも似ています。スコールも夕立と同様に夕方前後に発生することが多いのですが、筆者がバンコクで1年間生活した体験としては、明け方に発生するスコールも珍しくありませんでした。
熱帯モンスーン気候(Am)の雨温図
読み取り方としては、最寒月平均気温が18℃以上であること。そして最少雨月の降水量が60㎜を下回っていることです。「弱い乾季」だからといって、Amの方がAwよりも最少雨月の降水量が多いとは限りません。あくまでも先ほどの計算式に当てはめて導き出されます。
熱帯は低緯度地方に限定されますので、1年を通して気温の変化の少ない「気温の年較差の小さい」気候となります。地球の地軸の傾きによる、太陽の南中高度の季節差が小さいからです。雨温図では、気温の折れ線グラフが「平坦な形」を作ります。この平坦な形が、低緯度地方の雨温図の特徴です。
熱帯モンスーン気候(Am)の植生
熱帯雨林に似ていますが、「弱い乾季」に落葉が見られます。このような樹林を熱帯季節林、熱帯季節風林、雨緑林、熱帯雨緑林などと呼びます。「乾季に落葉する」という特徴から言えば、私は雨緑林という呼称がもっとも適していると思っています。
落葉により太陽光が地表まで届くため、下草が生え、つる植物も育ちます。
雨緑林(熱帯季節林)の樹種
熱帯モンスーン気候区で見られる植物のうち、高校地理に登場する樹種をまとめます。(主に熱帯モンスーン気候区で見られる樹種ですが、それ以外の気候区でも見られます。)
マングローブ:熱帯から亜熱帯にかけて、淡水と海水の混じる場所、すなわち河口周辺に見られる森林。水面下に根を張る外見が特徴的。水面下の根の周りには小動物が集まり巣とするため、生態系保護の観点からも重要。高校地理では、「東南アジアにおいてマングローブを伐採してエビの養殖池を作っている」ということで環境問題のネタとして頻出。
チーク:材質は堅く、油分を含むため水や害虫に強い。そのため船材として利用される。インドから東南アジアにかけて多くみられる。
マングローブの写真
熱帯モンスーン気候(Am)の土壌
熱帯では、スコールのような、まとまった雨が降ります。すると作物にとって養分となる成分は、雨水に溶けて流れ出してしまいます。一方で、熱帯といえども雨が降らない時間は、高温と強い日光が地表にそそがれます。すると地中の水分は蒸発して、鉄やアルミニウム成分が表面に集まってしまいます(鉄・アルミナ富化作用)。こうやって作られる土をラトソルといいます。
ラトソル:熱帯に見られる成帯土壌。色は赤系。ラトソルは「レンガの土」の意。養分が溶脱しているため肥沃ではない。固化したものはラテライトと呼ばれる。とくにアルミニウム成分の多いものはボーキサイトと呼ばれる。
熱帯モンスーン気候(Am)の分布
熱帯モンスーン気候区は、赤道に近い低緯度地方に分布します。
「AfとAwの中間」という気候区ですので、分布も熱帯雨林気候からサバナ気候へと移り変わる地帯に見られます。しかし高校地理の教科書・資料集では、できるだけシンプルに区分図を作るためか、この漸移帯のAm気候区は省略しているようです。
よって、高校地理では、「季節風(モンスーン)の影響で弱い乾季がみられる熱帯地方」という意味合いでのAm気候区を学習することになります。
アジア ⇒ インド半島西岸、インドシナ半島西岸(ミャンマー~タイ)、ルソン島(比)。
アフリカ ⇒ 西部ギニア湾岸(ギニアビサウ~リベリア)
北米 ⇒ フロリダ半島南端
南米 ⇒ アマゾン川下流~ギアナ三国
熱帯モンスーン気候(Am)における人々の生活
土が肥沃でないため、焼畑によってその灰を肥料とする焼畑農業も見られます。しかし、人口の増加によって焼畑の面積を拡大しすぎる(過耕作)と、森林再生のサイクルに追い付かずに森林破壊へとつながります。
インドや東南アジアのAm気候区では、稲作が盛んです。