ケッペンの気候区分で最初に登場するのが熱帯雨林気候です。この後に十数個の気候区分が待ち構えていますので、地理の気候分野では何を学ぶのかという型を身につけていきましょう。
熱帯雨林気候(Af)の特徴
ケッペンが熱帯雨林気候に付けた記号はAfです。Aは熱帯、つまり「年中高温」ということ。そして f は「feucht(湿った)」すなわち「一年中雨が降る」ということです。feuchtというのはドイツ語で「湿った」という意味の単語です。英語ではhumidとかmoistに近いでしょうか。ですが、受験生にとってはfull season雨がfuru(降る)のfと覚えることも可能でしょう。
もう少し具体的に言い換えます。「年中高温」とは「最寒月平均気温が18度以上」のことで、「冬がない」ということです。「一年中雨が降る」とは「最少雨月でも60mm以上の降水量がある」ということで、「乾季がない」ことを意味します。
「一年中雨が降る」ことと「一日中雨が降っている」ことは別です。雨は、スコールという形で、まとまった雨が降ることが多いです。
一年中雨が降る理由としては、一年を通して熱帯収束帯(赤道低圧帯)の影響下に入っているからです。
A … 熱帯 ⇒ 年中高温 = 最寒月平均気温18度以上
f … 湿潤 ⇒ 年中降雨 = 最少雨月降水量60㎜以上
用語解説 スコール:狭義には「急な突風」のことを言いますが、一般的には「熱帯地方にみられる強風を伴う急な大雨」のことを意味します。高校地理・受験地理では、後者のような認識で問題ありません。日本の夕立にも似ています。スコールも夕立と同様に夕方前後に発生することが多いのですが、筆者がバンコクで1年間生活した体験としては、明け方に発生するスコールも珍しくありませんでした。
熱帯雨林気候(Af)の雨温図
読み取り方としては、最寒月平均気温が18℃以上であること。そして最少雨月でも60㎜以上の降水があることです。
熱帯は低緯度地方に限定されますので、1年を通して気温の変化の少ない「気温の年較差の小さい」気候となります。地球の地軸の傾きによる、太陽の南中高度の季節差が小さいからです。雨温図では、気温の折れ線グラフが「平坦な形」を作ります。この平坦な形が、低緯度地方の雨温図の特徴です。
熱帯雨林気候(Af)の植生
熱帯雨林気候と呼ばれるだけあって、熱帯雨林が広がっています。熱帯雨林とジャングルは、同じ意味の単語として使われてしまいがちですが、厳密には違います。
熱帯雨林:熱帯で年間降水量が2,000㎜以上ある場所に生まれる森林。常緑広葉樹で、多種類の高木が密生し、日光が地表まで届かないために下草が生えない。
ジャングル:熱帯雨林と異なり、下草が生え、つる植物やツタ類などが木々の間を埋めている。まさに密林。
セルバ:アマゾン川流域の熱帯雨林のことを、スペイン語・ポルトガル語でセルバという。
このように、熱帯雨林とジャングルは厳密には別物ですが、高校地理・受験地理では同じものとして理解しても差し支えはありません。高校地理では、「ジャングルという名称はアジア・アフリカで使われるもので、南米ではセルバと呼ばれる」という点が強調されています。
熱帯雨林の樹種
熱帯雨林気候区で見られる植物のうち、高校地理に登場する樹種をまとめます。(主に熱帯雨林気候区で見られる樹種ですが、それ以外の気候区でも見られます。)
マングローブ:熱帯から亜熱帯にかけて、淡水と海水の混じる場所、すなわち河口周辺に見られる森林。水面下に根を張る外見が特徴的。水面下の根の周りには小動物が集まり巣とするため、生態系保護の観点からも重要。高校地理では、「東南アジアではマングローブを伐採してエビの養殖池を作っている」ということで環境問題のネタとして頻出。
ラワン:フィリピンやカリマンタン島で見られる高木。幹が太い(直径2m)ために合板材として使われる。ベニヤ板にはラワン材が使われることが多い。
マングローブの写真
熱帯雨林気候(Af)の土壌
熱帯では、スコールのような、まとまった雨が降ります。すると作物にとって養分となる成分は、雨水に溶けて流れ出してしまいます。一方で、熱帯といえども雨が降らない時間は、高温と強い日光が地表にそそがれます。すると地中の水分は蒸発して、鉄やアルミニウム成分が表面に集まってしまいます(鉄・アルミナ富化作用)。こうやって作られる土をラトソルといいます。
ラトソル:熱帯に見られる成帯土壌。色は赤系。ラトソルは「レンガの土」の意。養分が溶脱しているため肥沃ではない。固化したものはラテライトと呼ばれる。とくにアルミニウム成分の多いものはボーキサイトと呼ばれる。
熱帯雨林気候(Af)の分布
熱帯雨林気候区に一年中雨をもたらすものは、熱帯収束帯(赤道低圧帯)です。こういった気圧帯は、地球の傾きによって季節移動をします。しかし赤道直下であれば、一年を通して熱帯収束帯(赤道低圧帯)の影響下に入りますので、基本的に雨季が見られない気候となります。
アジア ⇒ 赤道直下の島々。マレーシア、シンガポール、インドネシア、ミンダナオ島(比)。
アフリカ ⇒ コンゴ盆地(赤道直下であっても、アフリカ東部はAfにならないことに注意)
南米 ⇒ アマゾン川上流(赤道直下であっても、アマゾン川下流域はAfにならないことに注意)
熱帯雨林気候(Af)における人々の生活
熱帯雨林の中で狩猟採集生活を続けている部族もあります。北センチネル島(印)のように、外部との接触がない地域もあります。
土が肥沃でないため、焼畑によってその灰を肥料とする焼畑農業も見られます。しかし、人口の増加によって焼畑の面積を拡大しすぎる(過耕作)と、森林再生のサイクルに追い付かずに森林破壊へとつながります。
欧米人によって植民地化された地域では、プランテーション農業がおこなわれ、現在に引き継がれている地域もあります。
衛生面、水利面、疫病対策といった点で、人々は川辺や海辺に家を建てる傾向があります。水上交通が重要となり、港を中心に都市が広がります。