ウェーバーの工業立地論。各種工業はどこに立地するのか

ウェーバーの工業立地論。各種工業はどこに立地するのか

 様々な工業がどこに立地するのか。これを最初に解き明かしたのはウェーバーという地理学者でした。本記事では、ウェーバーの工業立地論について、できるだけ専門用語を使わずに解説していきます。また、高校地理の重要なテーマの一つである「工業の立地指向」について学習します。

ウェーバーとは何者か

 アルフレッド・ウェーバー(Alfred Weber 1868-1958)(以下ウェーバー)は、ドイツ人の学者です。経済学、社会学、地理学などが専門ですが、とくに経済地理学の業績(『諸工業の立地について』1909年)で知られています。兄は著名な学者マックス・ウェーバーで、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(1904年)の著者として知られています。兄マックスの方が有名でしょう。私も『プロテス~』は大学で課題として読みました。
 当時ドイツには、すでにチューネンの農業立地論(1826年)が存在していました。しかし、工業に関しては同様の理論が存在しなかったため、工業立地の法則を解き明かそうとしたのです。

ウェーバー理論の展開

 工場がどこに分布するのかを解き明かすうえで、ウェーバーはとくに①輸送費が最小化される地点に注目しました。次に②労働費に注目し、輸送費からの考察で得られた結果にどのような変化がみられるかを考察しました。最後に③集積について注目し、集積の利益によって①・②の結果に変化がみられるかを考察しました。

輸送費指向

 ウェーバーが最初に考察したのは、輸送費の最小化についてでした。輸送には、原・燃料の輸送と、製品の輸送があります。まずは原・燃料について見ていきます。
 原・燃料には、どこにでも手に入る普遍原料(空気、水など)と、特定の場所でのみ手に入る局地原料(石炭、石油、鉄鉱石など)があります。
 局地原料については、その原料が製品にそのまま残る(純粋原料)か、もしくは量が減少する(重量減損原料)かによって工業の立地が変化します。
 
 よって、ざっくりとですが、次のように分類されます。
 
 普遍原料の比率の高い工業 ⇒ 市場に立地 市場指向型工業(消費地指向)
 重量減損原料の比率の高い工業 ⇒ 原料産地に立地 原料指向型工業(原料地指向)
 純粋原料が使われる場合 ⇒ 基本的には立地自由

市場指向型工業(消費地指向)

 水や空気のような、どこでも手に入る原・燃料を使用する場合、その工業は市場の近くに立地します。どこでも手に入る水を運ぶのは無駄だからです。(例:ビール工業清涼飲料水工業) 例えばビール工業の場合、ビール1トンを製造するために必要な水の量は約10トン、大麦・ホップは0.035トンとなりますので、明らかに消費地指向となります。
 また、原・燃料の輸送に比べて製品の輸送が割高な製品(白物家電、雑誌など)の工場も市場の近くに立地します。(例:電気機械工業出版・印刷業
 大都会の雰囲気の中で製造されたほうがよいとされるものもあります。(例:高級服飾業

原料指向型工業(原料地指向)

 原・燃料が特定の場所でしか手に入らず(局地原料)、加工後に重量が減少する場合(重量減損原料)、その工業は原・燃料の手に入る場所に立地します。できるだけ軽くしてから運んだ方が費用を抑えられるからです。(例:セメント工業鉄鋼業製紙・パルプ工業
 例えばセメント工業の場合、セメント1トンを製造するために必要な主要原料は、石灰石1.33トン、石炭0.43トン、粘土0.35トンです。よって、セメント工業は石灰石の産地に立地することになります。

 鉄鋼業に必要な主な原・燃料は、鉄鉱石と石炭(コークス)です。1900年頃、銑鉄1トンの製造に必要な鉄鉱石が2トン、石炭が4トンでしたので、鉄鋼業は炭田の近くに立地していました。後に技術が進んで、1960年代には、銑鉄1トンに必要な量は鉄鉱石が1.7トン、石炭が1.2トンとなりました。よって、鉄山の近くにも鉄鋼業が立地するようになります。現在では、鉄鉱石も石炭も海外から輸入する国が増えたため、工業地帯(市場)の近くの臨海部に鉄鋼業は立地するようになりました(臨海指向型工業)。

 

 製紙・パルプ工業は、木材を小片(チップ)にしてから繊維(パルプ)を取り出し、薄く広げて乾燥させる工業です。木材を運ぶより紙にしてから運んだ方が輸送費がかかりません。よって製紙・パルプ工業も原料指向型工業となります。

労働費指向

 製品の輸送費と労働費を比較してみます。輸送費に比べて労働費の比率が高い場合には、その工業は労働費の低い農村や外国に立地しようとします。ただし、田舎に行くほど良いというわけではありません。空港や高速道路、港などの交通インフラが整っていなければ輸送費が逆に高くついてしまいます。ですので、交通手段が整えられた地方や外国に工場が移転することになります(交通指向型工業)。

労働力指向型工業(労働力指向)

 例えば繊維工業でTシャツを製造するとします。Tシャツ製造に高度な技術は必要なく、価格も高額なものではありません(低付加価値)。また重量は軽く、輸送費もかかりません。よって、安価で豊富な労働力を求めて、発展途上国に工場が立地します。
 次にIC(集積回路)工業を見てみます。集積回路には高度な技術が詰め込まれていて高額なものですが、重量は極めて軽く、輸送費はほとんど無視できます。よって、日本では東北地方や九州地方に工場が立地しています。

 一方で、高度な技術が必要とされる工業、例えば伝統工芸IT産業も、職人や技術者の多い土地に立地するという点で労働力指向型工業に分類されます。

集積指向

 企業内の複数の工場、もしくは複数の企業が集まっている状態を集積とよびます。これは、集積した方が利益が増すと考えられた結果です。集積することによって、大量生産の利益が生じます。また、複数の企業が集積すれば、インフラ利用、営業、輸送費の点などで費用を抑えられます(集積の利益)。
 しかし集積が進めば地価が高騰するため、収益を圧迫し、企業が分散する力となって働きます(集積の不利益)。
 また交通の要衝や、安価な労働力の多い地点に工場が集まったとしても、それは集積の利益を求めての結果ではないため集積指向とはみなされません。

集積指向型工業(集積指向)

 例えば、自動車工業電気機械工業では、様々な種類の部品が組み合わされて製品が造られます(総合組立工業)。ですので、1社ですべての部品を製造することはできないため、子会社や下請け企業が周囲に集積することになります。結果として、企業城下町と呼ばれるような状態が生まれます。(例:パナソニックの門真市、トヨタ自動車の豊田市)

 

その他の立地指向

 高校地理の教科書では、ウェーバーの工業立地論をもとに、教科書の著者の方々による独自の表が掲載されています。ですので、帝国書院も二宮書店も、立地のまとめ表には「著者原図」という注意書きがされています。立地指向の名称も、各社で微妙に異なりますので、教員も学習者も注意が必要です。大切なのは意味であって用語ではありません。
 これから取り上げる立地指向は、ウェーバーの工業立地論を発展させたものです。

臨海指向型工業(港湾指向)

 原・燃料を海外からの輸入に頼っている場合、港の近くに工場が立地することで輸送費を抑えられます。さらに、市場である工業地帯や大都市への輸送も考慮に入れれば、臨海指向というのは「大都市、工業地帯の近くにある港に立地する」と言い換えることができます。ですので、港ならどこでもいいというわけにはいきません(例:石油化学工業鉄鋼業) 

臨空港指向型工業(臨空指向) 

 製品が軽くて高価な場合、輸送費は無視できるレベルまで抑えられます。IC(集積回路)工業が代表例です。先述したように、日本では、高速道路や空港の整備された東北地方や九州地方にIC工場が立地します。

まとめ

 本記事では、ウェーバーの工業立地論についてまとめてみました。鉄鋼業のように、「原料地指向 ⇒ 臨海指向」と、時代とともに変化することもあります。また電気機械工業が集積指向と同時に労働力指向でもあるように、複数の立地指向に分類されることもあります。そのあたりを柔軟に学習してもらえたらと思います。

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