かつては「世界第2位の経済大国」と呼ばれた日本も、世界経済の中での相対的地位は低下してきています。アジアの国々の経済成長は著しく、日本を追い抜く国も出てきていますが、そんな彼らも過去には「新興の国」とみなされていました。本記事では、「新興の国」であったNIEsについて学習します。
NIEs(ニーズ)の意味
NIEs(ニーズ)とは、Newly Industrializing Economiesの略称です。日本語では新興工業経済地域と訳されています。
「新興」ですので、工業化が「新しく興った」国・地域をさしています。しかしながら、この用語ができてから40年が経ちました。また一人当たりGDPで日本を追い抜いている国・地域(シンガポールと香港)も含まれています。このような現状では、NIEsという語句は死語とすらいえます。
NIEsという語句が生まれた経緯
1979年に出版されたOECDリポート『新興工業国の挑戦』で、NIEsの国・地域が注目されるようになりました。
当時は、NIEsという呼び方ではなくて、NICs(ニックス):Newly Industrializing Countries、日本語で新興工業国と呼ばれていました。
しかし1988年のトロント・サミットにおいてNICsからNIEsへと呼称の変更がなされます。これは、NICsに含まれていた香港や台湾を国と認めない中国に対する配慮が原因と考えられます。
NIEs(ニーズ)に含まれる国
先述のOECDリポートによれば、NIEsに含まれるものとして次の10か国・地域があげられています。
アジア :韓国、シンガポール、台湾、香港
ヨーロッパ:ギリシャ、ポルトガル、スペイン、旧ユーゴスラビア
中南米 :メキシコ、ブラジル
NIEsとされた国・地域の特徴
OECDリポートでは、NIEsの国・地域の共通点として、次のような特徴をあげています。
①工業部門における雇用水準の増大とその全雇用に占めるシェアの急速な伸び
②製品輸出における市場シェアの拡大
③一人当たり実質国民所得の先進工業国とのギャップの急速な相対的縮小
つまり、①工業化が進んでいて、②輸出品が外国で受け入れられていて、③所得も上昇している国・地域 というわけですね。
アジアNIEsとは何か
NIEsに数えられた10か国・地域のうち、アジアの4か国・地域(韓国、シンガポール、台湾、香港)のことをとくにアジアNIEs(アジアニーズ)と呼びます。
これら4か国・地域は、「アジア四小龍」「Four Asian Tigers」などと呼ばれ、とくに経済成長の著しい国・地域として注目されていました。
それでは、アジアNIEsの4か国・地域について、簡単に経済発展の状況を見ていきましょう。
アジアNIEsの国・地域 ①韓国
朝鮮戦争(1950-1953)で国土が荒廃したものの、1965年の日韓基本条約によって、日本からの資金・技術援助がおこなわれ、経済発展。これを漢江の奇跡と呼びます。この経済発展のなかで成長した大企業は財閥と呼ばれます。1996年にはOECDに加盟。これは日本に次ぎ、アジアで2番目となります。
主要産業は、電気・電子機器、自動車、製鉄、造船、石油化学。
アジアNIEsの国・地域 ②シンガポール
歴史的に地の利を生かした中継貿易の土地として栄えました。1965年にマレーシアから分離独立したあとは、ジュロン工業団地を中心に工業化。1960年代後半から急成長を遂げました。現在はアジアの金融センターとしての地位を確立しており、一人当たりGNIが51,880ドル(2016年)と、日本の37,930ドル(2016年)を大きく上回っています。
アジアNIEsの国・地域 ③台湾
国共内戦に敗れた中国国民党政権は、1949年に南京から台北へ移りました。この中華民国政府は、台湾を農業国から工業国に切り替えていく政策を実施します。その結果、1963年から1972年の10年間、平均経済成長率は10%を超えました。
主要産業は電気・電子機器、化学品、鉄鋼、金属、機械。
アジアNIEsの国・地域 ④香港
香港は、アヘン戦争後にイギリスの植民地となり、1997年に中国へ返還されました。1970年代には、香港政府による積極的なインフラ整備、公共事業が進められ、香港経済は発展しました。返還後も「一国二制度」と呼ばれ、一定の自治が認められています。政治的にはデモが頻発して混乱していますが、経済的には自由な環境が整えられています。2014年に一人当たりGDPで日本を追い抜き、現在も日本の1.2倍ほどの数値となっています。
アジアNIEsおよび日本の一人当たりGDP(名目)の推移(統計)
NIEsという語句が使われだした1980年当時と、最近の2108年について、一人当たりGDPの値(名目、当時のレートでUSドル換算)をまとめます。
日本 1980年 9,466ドル
2018年 39,303ドル
シンガポール 1980年 5,004ドル
2018年 64,578ドル
韓国 1980年 1,761ドル
2018年 33,319ドル
台湾 1980年 2,367ドル
2018年 25,007ドル
香港 1980年 5,664ドル
2018年 48,450ドル