漁業・水産業は地理の大切なテーマの一つです。今回は、漁業そのものではなく、そこで登場する魚介類に注目してみます。
アンチョビ(カタクチイワシ)
おそらく受験地理で最も出題頻度が高い魚介類がアンチョビではないでしょうか。この魚はカタクチイワシとも呼ばれているように、イワシの一種です。「カタクチ」の意味は、「硬い口」と誤解している人もいるでしょうが、「肩までのびる口」というのが正解です。
日本では、イワシ類は最も漁獲量の多い魚です(下の統計参照)。カタクチイワシの仔魚は「シラス」と呼ばれています。
高校地理のアンチョビは、ペルー沖で漁獲されることで有名です。このペルー沖のアンチョビは、乾燥させて粉状にします。これを魚粉(フィッシュミール)と呼び、肥料や飼料として使います。
日本では、主に銚子港(千葉県)での水揚量が多い魚です。江戸時代には、魚粉は干鰯(ほしか)と呼んで、肥料として普及しました。
大阪の海遊館では、カタクチイワシの大群を見ることができます。
日本における魚種別漁獲量(魚類・海面漁業のみ)(2016年、千t、『日本国勢図会』より)
1位 いわし類 710
2位 さば類 503
3位 かつお類 240
4位 たら類 178
5位 まぐろ類 168
カタクチイワシの絵
タラ
タラ(鱈)は、北半球の寒い地域の魚です。マダラ、スケトウダラ、コマイの3種が相当します。コマイは北海道以外ではあまりメジャーではないので、ここでは残り2種の話が中心となります。
タラは底魚(底生魚)といって、海の底の方に生息します。ですので、この魚の漁獲方法は底引き網漁となります。この底引き網漁については、高校地理においては、北海におけるトロール漁法が知られています。
日本では、主に北海道で漁獲されます。
イギリスのフィッシュ・アンド・チップスで一般的に使われているのがタラです。
スケトウダラの卵巣は、たらこ、辛子明太子の原料となります。
トロール漁法:トロール船を用いて、海底の魚類をまとめて捕獲する底引き網漁。北海で行われるものが有名。
フィッシュアンドチップスの写真
サケ・マス
サケ(鮭)は、主に太平洋北部に生息します。川で孵化し、海で数年を過ごし、再び母川に回帰して産卵後に死にます。日本では北海道で85%(2016年)が漁獲されています。
サケの卵はイクラ、筋子として食されます。
ヴァンクーヴァー(カナダ)には、「ブリティッシュコロンビア・ロール(BCロール)」と呼ばれる巻き寿司があり、サケの身や炙ったサケの皮を使用します。海苔の代わりに鮭皮を使用しており、美味しいものです。
マス(鱒)はサケに似た魚です。サケとマスの区分は複雑で、国によっても区分の仕方が異なるため、「サケ・マス」とセットで扱うこともあります。高校地理では厳密に区分する必要はありません。
温泉旅館の朝食で提供されるような、昔からあるサケは国産の白鮭です。白鮭は生食に向かないため、回転寿司などで提供される輸入品の「サーモン」とは品種が異なります。
サケ・マスの輸入先(2015年、財務省貿易統計より)
1位 チリ 56.4%
2位 ノルウェー 22.0%
3位 ロシア 11.1%
4位 アメリカ 7.2%
その他 3.3%
カツオ
カツオ(鰹)は、全世界の暖かい海に分布します。日本では、初夏に黒潮に乗って北上します。このときのカツオは脂が少なく、「初鰹(はつがつお)」と呼ばれて食されます。秋に南下してくるカツオは「戻り鰹」と呼ばれて脂がのっており、初鰹とは別の味が楽しめます。
カツオの燻製は「鰹節(かつおぶし)」と呼ばれ、長期保存が可能となっています。短期保存型なら、「なまり節」という商品も美味しいものです。
漁獲方法としては、船に並んだ漁師たちが次々とカツオを釣り上げる「鰹一本釣り」が知られています。焼津港(静岡県)が、カツオの最大の水揚地となっています。
マグロ
「マグロ(鮪)」と言う場合、一般的にはクロマグロをさします。他にもミナミマグロ、ビンナガマグロ、メバチマグロ、キハダマグロなどがマグロの一種とされています。全世界の暖かい海に分布します。
上記の品種分けの他に、日本人にとっては「赤身」、「中トロ」、「大トロ」など部位による区分がよく知られています。
クロマグロは資源危機が懸念されています。一方で、近畿大学がクロマグロの完全養殖に成功しました。「完全養殖」と言った場合、仔魚を孵化させるところから養殖をしますので、天然の個体数を減らしません。単純に「養殖」と言った場合には、幼魚を捕獲して育てるため、結果としては個体数の減少につながります。
日本のマグロ類の自給率は48.7%(2017年、水産庁HPより)です。クロマグロに関して言えば、55.5%が国内産で、国内産のうち58.7%が養殖によるものです(2017年推計、同HPより)。しかし、完全養殖によって出荷されたマグロは、国内需要の0.15%程度と推測されるため、実際に口にすることはほとんどないのが現状です。
エビ
エビと一言で言っても種類は様々です。大きなものならロブスターや伊勢エビ、小さなものならサクラエビがよく知られています。
高校地理でエビに関連しているネタは、東南アジアにおける養殖の話です。エビの養殖池を作るためにマングローブ林を伐採しているという環境問題のネタとつながってきます。この場合、エビの種類はブラックタイガーとバナメイエビという種です。日本のクルマエビに似た種です。この三つの種は、英語で表記するときには「prawn」でひとくくりにされることが多いです。日本では、天ぷらやエビフライで使われています。
環境問題のネタはこれからの地理でも重要度の増す分野ですから、マングローブの話から紐づけて、エビについての出題があるかもしれませんね。
サクラエビは体長数㎝の小さなエビです。国内では100%駿河湾産です。2018年から不漁が続いています。
なお、日本のエビの自給率は8.7%です(2017年、帝国書院HPより)。
日本におけるエビの輸入先(2017年、%、『データブックオブザワールド』より)
1位 ベトナム 21.9%
2位 インド 17.4%
3位 インドネシア 14.4%
4位 アルゼンチン 9.2%
5位 タイ 6.5%
カキ
カキ(牡蠣)は養殖が盛んな貝類です。一般的にカキと言ったらマガキ(真牡蠣)かイワガキ(岩牡蠣)をさします。マガキは主に冬に食し、「Rの付く月」すなわち9月(September)から4月(April)が旬とされています。イワガキは夏に食します。
カキの養殖は、海面に設置したイカダから吊るす垂下方式で行われるのが一般的です。ですので、波の穏やかなリアス海岸での養殖が適しています。国内では、広島県での収獲量が突出しています。海外では、アメリカのチェサピーク湾が有名です。
カキ類の海面養殖収獲量(2018年、100t、農林水産業統計より)
1位 広島県 1,040 ⇒ 広島湾
2位 宮城県 253 ⇒ 松島湾
3位 岡山県 156
4位 兵庫県 85
5位 岩手県 66
真珠
真珠は、アコヤガイなどの貝類の体内で作られる宝石です。現在は養殖によるものが大半となっています。三重県の英虞(あご)湾が、日本における真珠養殖発祥の地とされています。海外では、オーストラリアの木曜島が、過去に日本人が居住して真珠の養殖業にたずさわっていましたが、現在真珠の養殖業は廃れてしまいました。
真珠の養殖収獲量(2017年、kg、e-Statより)
1位 愛媛県 7,664
2位 長崎県 6,894 ⇒ 大村湾
3位 三重県 4,138 ⇒ 英虞(あご)湾、五ケ所湾
4位 熊本県 645
5位 大分県 268
イカ
イカは、スルメイカを中心に様々な種があり、そのほとんどが食用とされます。日本では、青森県の八戸漁港での水揚の多い海産物となります。
ユダヤ教では、鱗のない海生生物は食べてはいけないという決まりがあり、エビ、カニ、貝、タコ、イカなどを食べません。
イカの漁獲量(2016年、t、農林水産省統計より)
1位 青森県 25,531
2位 北海道 19,396
3位 長崎県 10,403
4位 石川県 8,242
5位 兵庫県 6,184