牛は荷役、農耕用にも利用されますが、主に肉、乳を得るために飼育されます。
高校地理においては、牛の飼育場所(分布)、特殊な飼育方法、牛と人間社会との関係などを学びます。
牛の種類
乳牛(乳用牛)
乳牛は雌牛に限定されます。よって乳牛種であっても雄牛は肉用にまわされます。乳が出るのは出産後ですから、繰り返し妊娠させることで、乳牛は常に産後状態におかれます。乳の生産量は3~4回目の出産時がピークとされており、その後は生産量が落ちるため屠殺されます。
主な乳牛種を紹介しますが、これらを判別するような出題はされないでしょう。
主な乳牛種:ホルスタイン:原産地ドイツ~オランダ。名前はシュレースヴィヒ・ホルシュタイン州に由来。白黒斑の模様が特徴的。乳質は薄め。乳量が多い。
ジャージー:体は褐色(茶色)。乳質は濃厚。バター向け。
肉牛(肉用牛)
肉牛は肥育場で育てられ、生後2年半~3年で出荷されます。
主な肉牛種:ショートホーン:スコットランド原産。
アンガス牛:スコットランド原産。肉質は柔らかめ。ステーキ向き。
黒毛和種:和牛の一種で、国内の肉牛はほとんどがこの種。
ヤク
ヤクはウシ科の生物です。ヒマラヤ山脈からチベット高原にかけて生息します。高地に適応したウシの一種で、肉、乳、毛を得ます。外見的には毛が長いことが特徴で、試験では写真や絵を使って出題されることがあります。
チベット料理のモモ(餃子)やトゥクパ(うどん)などにはヤクの肉が入っていて、なかなか美味です。ヤクの乳から作ったバターは、寺院ではロウソクとして使いますし、麦焦がしと混ぜてツァンパ(団子)として食されます。お茶に入れてバター茶にもします。
ヤクの糞は、乾燥させて燃料とします。チベットの家屋では、外壁に糞の塊を張りつけて乾燥させています。これを焚き付けとして利用します。筆者がチベットを旅行した際には、石炭ストーブの焚き付けで使われるのを目撃しました。
水牛
ウシ科の生物で、沼地や河川に生息します。東南アジアから南アジアが主な生息地です。水田耕作や荷役で利用される他、肉、乳も利用されます。角の形や、頭から胴体にかけての形状が他の牛種と異なるため、写真の読み取り問題でも出題されます。
筆者がミャンマーを旅行した際には、タクシーを呼んだら水牛が曳く牛車がやってきました。決して観光用とかではなく、普通に地域住民にとってのタクシーでした。(ちなみにスピードは歩くのと変わりませんでしたが、8月のミャンマーの暑さでは自分で歩く気はしませんでした)
宗教と牛の関係(ヒンドゥー教の事例)
ヒンドゥー教では牛が崇拝対象となっといて、牛肉を食べることはタブーとされています。
しかしインドには、イスラム教徒やキリスト教などの非ヒンドゥー教徒が2億人いるとされていますので、牛肉市場は存在します。また、水牛は崇拝の対象から外れているため、使役や搾乳に使えなくなると食肉として解体されます。そのような例外はあるものの、「ヒンドゥー教は牛肉がタブー」という図式は分かりやすいため、受験地理では素直に受け入れるしかないですね。
ところで、牛肉を食べることはタブーとされていますが、牛乳を飲むことは禁じられていません。そこでインドでは、国民の栄養状態を改善させるために1970年代から牛乳の増産が図られました。これを「白い革命」と呼びます。
牛の飼育方法
フィードロット
肉牛に濃厚飼料を与えて、短期間で太らせる牧場をフィードロットといいます。とくにアメリカのものが有名です。過去にはコーンベルトで見られた形態だったようですが、現在はアメリカ西部の放牧地帯(主にグレートプレーンズ)に多く集まっています。
移牧
ヨーロッパのアルプス山脈周辺でおこなわれる牧畜形態です。夏は高地で放牧をし、冬は低地に移動します。季節によって家畜とともに移動をするだけでしたら遊牧と変わらないわけですが、遊牧民がテント暮らしをしているのに対して、移牧の場合は定住地があることが特徴です。
冷凍船の発明、南半球での牛肉生産の増加
世界の主な市場が北半球に偏っているため、南半球の生鮮品生産は販売先が限定されてきました。赤道の熱帯地域を通過する必要があったためです。牛肉に関しては、干し肉にするか塩漬け肉にして輸出する必要がありました。1870年代にフランスで冷凍船が発明されると状況が一変します。1882年にアルゼンチンで最初の冷凍肉工場が建設され、南半球から北半球へ精肉の輸送が盛んになりました。現在(2016年)では、牛肉の生産上位5か国のうち、3か国が南半球の国です。
牛の飼育地の立地
高校地理では、他の家畜と比べたときの牛の分布が出題されます。特に、羊との比較で出題されることになります。
ニュージーランドでは北島が酪農地帯(牛)、南島の東側が牧羊地帯。
オーストラリアでは、大陸の北寄りが牛(肉牛)、南寄りが羊、東岸が酪農地帯。
アルゼンチンでは、湿潤パンパが牛(肉牛)、乾燥パンパが羊。
アメリカ合衆国では、五大湖沿岸が酪農地帯、グレートプレーンズが肉牛、コーンベルトが豚。
日本における牛の状況
日本における牛の頭数(2017年)は、乳用牛132万頭、肉用牛250万頭となっています。GATTウルグアイ・ラウンドの交渉によって、1991年から牛肉の輸入自由化が始まりました。現在は牛肉の自給率は36%(2017年)、牛乳・乳製品の自給率は62%(2015年)となっています。
外国産の牛肉には関税がかけられていますが、それでも国産牛よりは安く、2017年度の牛肉の小売価格(かた肉、100g)は、米国産が292円なのに対して、和牛は795円と差がついています。
狂牛病について
狂牛病は、正式な名称を牛海綿状脳症(BSE)といいます。BSEに感染した牛の脳やせき髄を、他の牛にエサとして与えたことで広がりました。日本でも計36頭の感染牛が発見されましたが、2003年以降に出生した牛からの感染は確認されていません。現在は、世界的にも感染の報告はほとんどありません。
牛に関する統計
牛の頭数(2016年、千頭)『世界国勢図会』より
1位 ブラジル 218,225
2位 インド 185,987
3位 アメリカ 91,918
4位 中国 84,375
5位 エチオピア 59,487
牛肉の生産(2016年、千t)『世界国勢図会』より
1位 アメリカ 11,470
2位 ブラジル 9,284
3位 中国 6,997
4位 アルゼンチン 2,644
5位 オーストラリア 2,361
牛乳の生産(2016年、千t)『世界国勢図会』より
1位 アメリカ 96,359
2位 インド 77,416
3位 中国 36,775
4位 ブラジル 33,625
5位 ドイツ 32,672
日本における乳用牛の頭数(2017年、万頭)『日本国勢図会』より
1位 北海道 77.9
2位 栃木 5.2
3位 岩手 4.3
4位 熊本 4.2
5位 群馬 3.5
日本における肉用牛の頭数(2017年、万頭)『日本国勢図会』より
1位 北海道 51.7
2位 鹿児島 32.2
3位 宮崎 24.4
4位 熊本 12.6
5位 岩手 9.2
日本における牛肉の国別輸入量(2018年、トン、財務省貿易統計より)
1位 オーストラリア 310,064
2位 アメリカ 254,324
3位 カナダ 24,917
4位 ニュージーランド 16,417
その他の国々 13,965
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