鉄鋼は、身近な機械から巨大建造物まで、さまざまな場所で使われています。その主原料である鉄鉱石は、私たちの生活にとって最も欠かすことのできない鉱産資源と言えるのではないでしょうか。
高校地理においても、世界の鉄山の分布や鉄鉱石の生産・貿易、そして鉄鋼業との関係(工業立地論)など、鉄鉱石に関する話題が多くあります。最後は暗記に走りがちな社会科ではありますが、多くの生徒が疑問に持つであろう「ところで、なぜ鉄鉱石は安定陸塊に多いの?」という疑問にも答えられるよう、まとめていきます。
鉄鉱石とは何か
鉄鉱石は、鉄鋼の原料となる鉱産資源です。現代の鉄鋼業で利用される鉄鉱石には、主に磁鉄鉱と赤鉄鉱があります。鉄は、酸化鉄などのように化合物として地表で存在しているため、そのままでは使うことができず、酸素を取り除くための還元をする必要があります。
磁鉄鉱
磁鉄鉱は2億~500万年前と、比較的新しく作られた鉄鉱石です。マグマがゆっくりと冷えてできた火成岩に多く含まれています。スウェーデンのキルナ鉄山でとれる鉄鉱石のタイプです。このタイプの鉄鉱石は風化すると砂鉄になるため、日本でも伝統的なたたら製鉄で利用された鉄鉱石です。
赤鉄鉱
現代の鉄鋼業で主流となっている原料が赤鉄鉱です。磁鉄鉱よりも還元しやすい(酸素を取り除きやすい)のが特徴です。30億~20億年前にできた鉄鉱石です。ブラジル、オーストラリア、アメリカ、カナダなどの鉄山でとれる鉄鉱石のタイプです。赤鉄鉱が生成された経緯は、次の章の話と関連するので、ここでは省略します。
鉄鉱石はなぜ安定陸塊に多いのか
地球を構成する物質のおよそ3分の1は鉄です。鉄は主に地球内部の核を形成していますが、マントルにも鉄は含まれています。地球が誕生したばかりの頃は、大気中にも鉄は含まれていました。マグマオーシャンの時代が終わると、大気中の鉄は雨と一緒に地表に降ってきて、海洋中に溶解した鉄イオンとして存在していました。
今から27億年前頃、光合成をおこなうシアノバクテリアという生物が誕生します。光合成によって酸素が発生すると、水中の鉄イオンは酸素と結びついて酸化鉄となり、一斉に海底に沈殿を始めたのです。このシアノバクテリアという生物は、ストロマトライトという岩礁を海底につくりながら光合成をおこなうため、太陽光の届く浅い海に集中して存在していました。よって、当時の大陸棚にあたる大陸の周辺部に酸化鉄は多く沈殿していきました。この作用により、19億年前には海中の鉄イオンはほぼ酸化鉄に切り替わっていたと考えられています。ここで作られた酸化鉄が、現在の赤鉄鉱となっています。
酸化鉄の生成が終了したあとも、さまざまな堆積物が海底には積もっていきます。15億年前に大陸の隆起がおこり、鉄鉱床が作られた大陸棚が離水して陸地になりました。なお、この時代は先カンブリア時代と呼ばれています。鉄鉱床が陸地になったとはいえ、まだ鉱床の上には別の堆積物が積もっています。しかし、これ以降プレートの境界にならなかったエリアは、侵食だけが進んでいき平坦な地形を作っています。これを安定陸塊と呼びます。その結果、地中にあった鉄鉱床が地表面に露出することになり、現在の鉄山を形成することとなったのです。
以上のような流れで、鉄山は安定陸塊に多く、しかも大陸の周縁部(もしくは旧プレートの周縁部)に多く、地形的には侵食が進んだ楯状地に多いということになったのです。
世界の主な鉄山
アジアの鉄山
中国 アンシャン(鞍山) ⇒ フーシュン(撫順)炭田と結びついてアンシャン(鞍山)コンビナートを形成
ターイエ(大冶) ⇒ ピンシャン(萍郷)炭田と結びついてウーハン(武漢)コンビナートを形成。戦前は日本に輸出されて筑豊炭田と結びつき八幡製鉄所
インド シングブーム ⇒ ダモダル炭田と結びついてジャムシェドプルの鉄鋼業(タタ財閥)
ヨーロッパの鉄山
スウェーデン キルナ ⇒ 夏は自国のルレオ港から、冬はノルウェーのナルヴィク港(不凍港)から出荷 ⇒ 現在は砕氷船の開発により、冬でもルレオ港からの出荷が可能に
ウクライナ クリヴォイログ ⇒ ドネツ炭田と結びついてドニエプル工業地域を形成(現在の状況はウクライナ危機のため不透明)
スペイン ビルバオ ⇒ バスク地方の経済だけでなく、かつてはスペイン経済を支えていた。現在は閉山。(しかし、古い資料では鉄山の分布で表示されることも ← 大学入試の鉄山分布読み取りの出題では、鉄山の決め手となった時代が懐かしい)
フランス ロレーヌ ⇒ かつてはライン川の水運を利用してドイツのルール炭田に運ばれてルール工業地帯(炭田立地型の鉄鋼業)、のちに近隣の石炭を利用してメス、ナンシーの鉄鋼業(鉄山立地型の鉄鋼業)。現在は閉山(1997年~)。不純物を多く含むミネット鉱 ⇒ トーマス製鋼法の発明(1878)により利用促進
北米の鉄山
アメリカ メサビ ⇒ 五大湖の水運を利用してアパラチア炭田と結びついてピッツバーグ、クリーブランドなどの鉄鋼業。近年は資源が枯渇してきており、貧鉱のタコナイト鉱の利用が拡大
南米の鉄山
ブラジル カラジャス ⇒ カラジャス鉄道で海岸のサンルイスまで運び海外へ輸出
カラジャス鉄道:カラジャス鉄山の鉄鉱石を運ぶために敷設。周辺の森林を広範囲に渡って伐採したことで、環境問題のテーマの一つになっている(森林破壊)。
イタビラ ⇒ ブラジルを代表する鉄山。海外へ輸出。
オセアニアの鉄山
オーストラリア マウントホエールバック(ピルバラ地区) ⇒ 鉄道で海岸のポートヘッドランドまで運び海外へ輸出
マウントトムプライス(ピルバラ地区) ⇒ 鉄道で海岸のダンピアまで運び海外へ輸出
鉄鉱石に関する統計
鉄鉱石の生産量
鉄鉱石の生産量(2015年、『世界国勢図会』より、千t)
1位 オーストラリア 486,000 34.7%
2位 ブラジル 257,000 18.4%
3位 中国 232,000 16.6%
4位 インド 96,000 6.9%
5位 ロシア 61,100 4.4%
鉄鉱石の輸出量
鉄鉱石の輸出量(2016年、『データブックオブザワールド』より、万t)
1位 オーストラリア 85,444 54.0%
2位 ブラジル 37,396 23.6%
3位 南アフリカ共和国 6,471 4.1%
4位 カナダ 4,060 2.6%
5位 ウクライナ 3,920 2.5%
鉄鉱石の輸入量
鉄鉱石の輸入量(2016年、『データブックオブザワールド』より、万t)
1位 中国 102,471 67.2%
2位 日本 13,004 8.5%
3位 韓国 7,174 4.7%
4位 ドイツ 4,003 2.6%
5位 オランダ 3,057 2.0%
鉄鉱石の埋蔵量
鉄鉱石の埋蔵量(2016年、『世界国勢図会』より、百万t)
1位 オーストラリア 23,000 28.0%
2位 ロシア 14,000 17.1%
3位 ブラジル 12,000 14.6%
4位 中国 7,200 8.8%
5位 インド 5,200 6.3%
日本における鉄鉱石の生産
大きな鉄鉱床をもたない日本では、古代より砂鉄を用いたたたら製鉄と呼ばれる製鉄法が行われてきました。しかし、明治時代になって海外から鉄鉱石や鉄鋼が輸入されるようになると、たたら製鉄は衰退します。現在は、伝統工芸の保存という意味合いで存続しているだけとなっています。
近代的な鉄山としては、新日鉄住金釜石製鉄所の発祥のもととなる釜石鉱山などがありましたが、この鉱山も現在は研究用に採掘が続けられているだけとなっています(釜石鉱山株式会社)。
そのため、現在のところ日本における鉄鋼業の材料としての鉄鉱石は、100%を海外からの輸入に依存している状態です。
日本の鉄鉱石の輸入先
日本の鉄鉱石の輸入先(2017年、『日本国勢図会』より、千t)
1位 オーストラリア 72,964 57.7%
2位 ブラジル 34,189 27.0%
3位 カナダ 6,496 5.1%
4位 南アフリカ共和国 3,756 3.0%
5位 インド 2,814 2.2%
関連項目
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