石炭は、古代の植物が地中で炭化したものです。そのため化石燃料とも呼ばれます。エネルギー革命で燃料の中心が石炭から石油に移った後も、製鉄や発電で石炭は使われています。高校の地理では、石炭の主な産地(炭田)の位置を把握しておく必要があります。そしてその石炭が国内で消費されるのか、外国へ輸出されるのか。鉄鋼業で使われるのなら、どこの鉄鉱石と結びついて、どこに工場が立地するのか。こういったことを学んでいきます。
石炭の種類と用途
石炭は、炭素含有量に応じて呼び方を分けています。炭素含有量の高い方から、
無煙炭 > 瀝青炭 > 褐炭
となります。センター試験(共通テスト)レベルでは、ここまで覚える必要はないでしょう。ただし瀝青炭が、加工されて製鉄用のコークスとなることは重要です。
無煙炭は文字通り煙の発生の少ない石炭ですので、家庭等での練炭として使われます。瀝青炭や褐炭は、鉄鋼業、火力発電、セメント工業などで利用されます。
火力発電と聞くと、石油を燃やしているとイメージする生徒もいるでしょう。しかし、世界の発電量の41%(2014年)が石炭発電によるものです。石油による発電量は数%に過ぎません。
鉄鋼業では、酸化鉄である鉄鉱石から酸素を取り除く(還元する)ために石炭の炭素が用いられます。
用語 コークス : 石炭を蒸し焼きにして不純物を取り除き、炭素の比率を高めた燃料。製鉄で使用される石炭とは、通常はコークスのことを指す。
石炭の採掘方法
石炭の採掘方法は、主に露天掘りと坑道掘り(坑内掘り)の二つがあります。テストで記述する際には、「掘り」(○)を「堀り」(×)と誤記する生徒が多いので気をつけたいところ。
採掘される地下資源が地表近くに存在する場合は、露天掘りのほうが効率もよく安全で大規模に採掘できます。
用語 露天掘り : 地表から直接地下資源を採掘する方法。安全性も高く、大規模な採掘が可能となる。日本にも北海道内に数ヶ所の露天掘り炭鉱があるが、規模は小さい。
炭田の分布
石炭は、植物が炭化したものです。古生代に繁茂していたシダ類等の植物が炭化したものが、現在の主な炭田を形成しています。植物が腐って分解されてしまうと炭化されないため、熱帯地域よりは、より低温の高緯度地方に炭田は多く分布します。植物の炭化には地熱と地圧の影響を受ける必要があるため、炭田は造山運動を受けた地域に多く分布します。高校地理では、「炭田は古期造山帯に広く分布する」と学習しますが、実際にはそうとも言い切れません。(参照:http://www.ninomiyashoten.co.jp/chiri_q_and_a/2018-001 ) とはいえ、テストでもそのように出題されますので、やはりステレオタイプとして「石炭 ⇒ 古期造山帯」と覚えておく必要があるでしょう。
世界の主な炭田
- アメリカ アパラチア炭田:メサビ鉄山の鉄鉱石と結びついて五大湖沿岸に鉄鋼業(ピッツバーグ、クリーブランドなど)
- ドイツ ルール炭田:ロレーヌ鉄山の鉄鉱石と結びついてルール工業地帯を形成(エッセン、ドルトムント、デュースブルクなど)
- ポーランド シロンスク炭田
- ウクライナ ドネツ炭田:クリヴォイログ鉄山の鉄鉱石と結びついてドニエプル工業地域を形成(ドニエツクなど)
- 南アフリカ共和国 トランスヴァール炭田
- 中国 フーシュン(撫順)炭田:アンシャン(鞍山)鉄山の鉄鉱石と結びついてアンシャン・コンビナートを形成
ピンシャン(萍郷)炭田:ターイエ(大冶)鉄山の鉄鉱石と結びついてウーハン(武漢)・コンビナートを形成
タートン炭田 - ベトナム ホンゲイ(ホンガイ)炭田
- インド ダモダル炭田:シングブーム鉄山の鉄鉱石と結びついてジャムシェドプルに鉄鋼業が発達(タタ財閥)
- カザフスタン カラガンダ炭田
- オーストラリア モウラ(モーラ)炭田:日中韓へ輸出
日本における石炭
日本で石炭の利用が始まったのは江戸時代からで、家庭用の燃料や製塩業に利用されていました。
明治時代に入ると、近代化とともに石炭の需要が増加し、九州や北海道を中心に生産量が急増しました。
大正時代から昭和初期にかけては、台湾・満州・樺太などでも炭鉱開発が行われ、戦争での需要もあって生産量は増加していきます。
戦後は、世界的に大油田が発見され、1960年代には石油に燃料の中心の地位を奪われました。これをエネルギー革命と呼びます。
海外から安価な輸入石炭が入ってくるようになると、坑内掘り主体の国内炭鉱は経営が悪化していきます。昭和末期から平成にかけて国内の炭鉱は相次いで閉山し、坑内掘りで採掘を続ける国内の炭鉱は、釧路コールマインの一ヶ所だけになりました。
2011年の震災により多くの原発が停止したため、石炭火力発電の重要性が高まり、発電での石炭消費量は急増しました。国内での石炭生産も増加はしましたが、石炭の国内自給率は0.7%(2017年)しかなく、ほぼ輸入に頼っている状況です。
2015年にはパリ協定が採択され、二酸化炭素の排出量を削減する必要性があります。しかしながら、技術開発によって石炭火力発電による環境への負荷は大幅に削減されてきていると経済産業省は主張しています。
石炭に関する統計
石炭の生産 (2015年) 『世界国勢図会』より
1 中国 56.5%
2 インド 9.6%
3 インドネシア 6.4%
4 オーストラリア 6.4%
5 アメリカ合衆国 5.6%
石炭の輸出量 (2015年)(万t) 『世界国勢図会』より
1 オーストラリア 39,235
2 インドネシア 36,697
3 ロシア 15,187
4 コロンビア 8,114
5 南アフリカ共和国 7,550
日本の石炭輸入先 (2017年) 『日本国勢図会』より
1 オーストラリア 61.8%
2 インドネシア 16.6%
3 ロシア 9.4%
4 カナダ 4.4%
5 アメリカ合衆国 4.2%
日本における石炭の用途別消費量 (2011年)(千t) 「経済産業省統計」より
1 電気業 72,406 (火力発電用)
2 鉄鋼 64,372 (製鉄用)
3 窯業土石 9,203 (セメント工業用)