鉄鋼業の立地は時代とともに変化している

鉄鋼業の立地は時代とともに変化している

 鉄鋼は各種機械の材料として欠かせないものです。日本では高度経済成長期に鉄鋼を「産業の米」と呼び、重要視してきました。日本は世界第2位の鉄鋼生産国ではありますが、首位である中国の生産量増加が著しいです。世界全体の鉄鋼生産量の約半数を中国産が占めています。
 高校地理においては、鉄鋼業の立地要因が時代とともに変化してきたことを学びます。

 

鉄鋼業の原料と製造方法

 鉄鋼業の主原料は鉄鉱石です。鉄鋼と鉄鉱で読み方が同じですので、高校生でも書き間違いが発生します。鉄鋼は工業の結果作られた製品。鉄鉱は地下資源です。世間一般では、地下資源も「鉄」ですし、製品も「鉄」で通用しますが、地理の授業では常に区別しながら言葉にする必要があります。
 地下資源である鉄鉱石が鉄鋼に変化する仕組みは、理科の授業で扱う領域ですので、社会科教員が無理に説明をしなくても良いでしょう。特に理系の生徒であれば、社会科教員よりもよっぽど詳しいかもしれません。
 採掘した鉄鉱石は酸化鉄の状態にあるので、鉄鉱石と一緒にコークス石灰石を高炉に入れ還元し、酸化鉄から酸素を取り除きます。こうやって取り出された金属を銑鉄とよびます。この銑鉄から余分な炭素を取り除いたものを鉄鋼といいます。この還元と製鋼の両工程を一つの工場でおこなうのが銑鋼一貫製鉄所です、

用語 : コークス 石炭を高温で蒸し焼きにすることで得られる燃料。石炭よりも炭素濃度が高く熱効率が良い。

 

 

鉄鋼業の立地

 鉄鋼業の原料の一つである石炭は、製鉄の過程でほとんどが消失してしまいます。よって、原料よりも製品の方が軽くなるため原料指向型工業となります。
 また、鉄鋼業で必要となる鉄鉱石と石炭が同じ場所で採れるとは限らないため、鉄山と炭田のどちらの近くに工場を置くかが問題となります。
 1900年頃、鉄鋼業に必要とされた原料の比率は 石炭:鉄鉱石=2:1 でした。よって、できるだけ石炭を動かさずに鉄鋼業を行うことが利益につながりました(炭田指向)。フランスのように鉄鉱石が採れる国でも、石炭が採れなければ、鉄鉱石をドイツに輸出して鉄鋼を購入する必要があったわけです。
 1930年頃の技術では、石炭と鉄鉱石は同じ程度の量で鉄鋼業が可能となりました。石炭:鉄鉱石=1:1。この段階になると、炭田の近くでも鉄山の近くでも条件は同じになります。フランスのような国は、石炭を輸入して自国で鉄鋼業を行うことが可能になりました(鉄山指向)。
 現在の技術では、石炭:鉄鉱石=1:2 という比率になっていますので、むしろ鉄鉱石を動かさないことが利益につながる状態です。しかし、近年は安価な輸入原料を使用する国が増えているため、石炭も鉄鉱石も船で輸入し、臨海部の工場で鉄鋼業を行っています。このような点から、鉄鋼業は臨海指向型工業になったといえるわけです。

 次のような順番になります。
 炭田指向 ⇒ 鉄山指向も ⇒ 臨海指向

 

日本における鉄鋼業

 日本は鉄鉱石産出に乏しいため、古代より製鉄には砂鉄を利用してきました。砂鉄の産地である中国地方を中心に、たたら製鉄と呼ばれる方法で鉄鋼業を行いました。
 近代的な製鉄所が作られるようになったのは明治時代になってからです。明治19年に岩手県の釜石に作られた製鉄所が、日本で始めて安定して稼動した製鉄所です。
 その後、日清戦争に勝利した日本は、その賠償金も使用し、明治34年に官営の八幡製鉄所(福岡県北九州市)の操業を開始しました。八幡製鉄所では、近くの筑豊炭田の石炭と、中国から輸入される大冶(ターイエ)鉄山の鉄鉱石を主に利用しました。典型的な炭田指向型の鉄鋼業立地といえます。
 1960年代に日本国内のほぼすべて(釧路炭鉱を除く)の炭鉱が閉鎖されると、鉄鋼業に必要となる石炭および鉄鉱石は海外からの輸入に依存するようになります。日本における製鉄所の立地も、太平洋ベルト上の工業地帯に隣接する形で、臨海部に集まることになりました(臨海指向型工業)。
 日本は、世界第2位の鉄鋼生産国となっています。

 

鉄鋼業の主な都市

アメリカ ピッツバーグ(炭田指向、アパラチア炭田 + メサビ鉄山)←“アメリカのバーミンガム”
イギリス バーミンガム(炭田指向)←“ブラックカントリー(黒郷)”
フランス フォス(臨海指向)、ダンケルク(臨海指向)
ドイツ 「ルール地方」 ⇒ エッセン、ドルトムント(炭田指向、ルール炭田 + ロレーヌ鉄山)
イタリア タラント(臨海指向)← バノーニ計画
中国 アンシャン(鞍山)、パオトウ(包頭)、ウーハン(武漢)←中国の三大鉄鋼コンビナート
  <アンシャン = アンシャン鉄山 + フーシュン炭田>
  <ウーハン = ターイエ鉄山 + ピンシャン炭田>
韓国 ポハン(浦項)(臨海指向)
日本
日本製鉄 ⇒ 室蘭市(北海道)、鹿嶋市(茨城)、君津市(千葉)、東海市(愛知)、和歌山市、北九州市(福岡)、大分市
JFEスチール ⇒ 千葉市、川崎市(神奈川)、倉敷市(岡山)、福山市(広島)
神戸製鋼所 ⇒ 加古川市(兵庫)

 

鉄鋼業に関する統計

粗鋼の生産(2017年)(千t) 『世界国勢図会』より

順位 国名 生産量
1位 中国 831,730
2位 日本 104,661
3位 インド 101,371
4位 アメリカ 81,640
5位 ロシア 71,340

鋼材および半鋼材の輸出(2016年)(千t)『世界国勢図会』より 

順位 国名 輸出量
1位 中国 108,066
2位 日本 40,505
3位 ロシア 31,155
4位 韓国 30,586
5位 ドイツ 25,087

鋼材および半鋼材の輸入(2016年)(千t) 『世界国勢図会』より 

順位 国名 輸入量
1位 アメリカ 30,913
2位 ドイツ 25,519
3位 韓国 23,285
4位 イタリア 19,616
5位 ベトナム 19,494

 

関連する項目・リンク

鉄鉱石 | 石炭 | 原料指向型工業 | 臨海指向型工業

 日本鉄鋼連盟 http://www.jisf.or.jp/index.html

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