先端技術産業(ハイテク産業)は、IC工業の立地とIT産業の立地を分けて理解しよう。ただしICとIT両方強い町もある

先端技術産業(ハイテク産業)は、IC工業の立地とIT産業の立地を分けて理解しよう。ただしICとIT両方強い町もある

 テストで日本の工場分布が出題されるとき、必ずそこに含まれているのがIC工場の分布図です。他の工場と明らかに分布が異なるので、判別は容易です。地方の内陸にもIC工場が分布する理由を生徒が説明できるように指導しましょう。
 IT産業は、IC工業と一緒に学習することが多いと思いますが、実際には異なる産業です。立地の要因も異なってきますので、分けて考えていくとよいでしょう。
 “インドのシリコンヴァレー”と呼ばれるバンガロールのネタは、受験地理で頻出となっています。

 

IC工業の概要

IC = Integrated Circuit(集積回路)

 IC(集積回路)は、一つのシリコン半導体基板上にトランジスター、ダイオードなどを結合した超小型回路です。1950年代に発明されました。小型ですが付加価値が高いです。より複雑で大規模なものはLSI(大規模集積回路)Large Scale Integration と呼ばれています。
 ICの材料にシリコンが使われているため、IC工業の盛んな地域にはシリコン・バレーシリコン・ロードといった呼び名が付けられることがあります。

用語 「シリコン」と「シリコーン」の違い

シリコンsilicon : 原子番号14の元素。ケイ素。半導体素子の材料となる。←ICで使用

シリコーンsilicone : 有機ケイ素化合物の重合体の総称。シリコーン・ゴムなど。

 

IC工場の立地

 IC(集積回路)は軽量で高付加価値をもつ製品です。一つあたりの輸送費については無料同然ですので、人件費や土地取得費用の安い遠隔地にも立地します。その意味で労働力指向型工業に分類されています。
市場へ輸送するために高速道路のインターチェンジ近くや、空港の近くに立地するため、交通指向型工業臨空港指向型工業にも分類されます。
 日本では、シリコンロードと呼ばれる東北地方や、シリコンアイランドと呼ばれる九州地方の内陸にも立地しているのが特徴です

 

IT産業の概要

IT = Information Technology(情報技術)

 IT産業とは、 PC本体やPCソフトウェア、情報通信インフラなどを指す総称です。1990年代後半に誕生したOS Windows95およびWindows98等の普及により、社会全体の構造を変えたIT革命がおきました。

ICT = Information and Communication Technology(情報通信技術)

 ITとICTの間に明確な区別はありませんが、ICTのほうが情報の共有という面により焦点を当てています。近年はITよりもICTが用語として使われることが多くなりました。

 

パソコン工業の立地

 1990年代まで、「パソコン購入」と言えば、デスクトップPC本体、ブラウン管モニター、キーボード、スピーカー、マウスなどを揃えることを意味しており、広いスペースを必要とする商品でした。よって、当時のパソコン工業の立地は市場指向型工業に分類されていました。
 現在はラップトップPCやタブレットPCが普及しており、輸送が容易になったことから、ほとんどを中国から輸入しています。PC工業は組立工業ですので、労働力指向型工業ともいえますし、多数の部品から成り立つ総合組立産業という視点から見れば集積指向型工業ともいえます。
 高校地理の教科書では、帝国・二宮ともに集積指向型工業として分類しています。

 

ソフトウェア産業の立地

 コンピュータのプログラミング等を行うソフトウェア産業は、高度な技術をもったプログラマーを必要とするため、労働力指向型工業に分類されます。
 日本はこの分野での国際競争力は弱いです。日本のソフトウェア産業は、企業システムの構築が主な業務となっています。2000年頃には、東京都渋谷区にIT系のベンチャー企業が集まり、ビットヴァレーと呼ばれたこともありました。現在も渋谷区には、DeNA、サイバーエージェント、GMOといった企業が集積しています。

用語 ビットヴァレー 東京都渋谷区にIT系の企業が集積している状態を、アメリカのシリコンヴァレーになぞらえてビットヴァレーと呼ぶ。“ビット”は、渋谷の渋の英訳bitterと情報量の単位を表すbitとを表している。“ヴァレー”は渋谷の谷のこと。

 世界的には、ビットヴァレーと同様に、シリコンヴァレーを真似て呼び名が付けられたような地域を地理の授業で扱うことになります。ただし、これらの地域の中には、IC工業の強い地域もあればソフトウェア産業の強い地域もあります。それらを同列で扱うことに疑問も感じますが、「先端技術産業の集積地」という意味では仕方のないことなのでしょう。

 

世界の主な先端技術産業の集積地

 

アメリカ

シリコンヴァレー : カリフォルニア州北部。高校地理では「サンノゼ近郊」と表現されることがあるが、実際はもっと広い範囲を指す。Apple、Google、Facebook、インテルなどが生まれた土地。

エレクトロニクスハイウェー : マサチューセッツ州。ボストンに大学が集積していることから、先端技術産業が集まった。

シリコンアレー : ニューヨーク市。ICT企業が集積している。“アレー”とは、路地のこと。

リサーチ・トライアングル・パーク : ノースカロライナ州。三つの大学が三角形に位置していることから名付けられた。アメリカを代表するハイテク産業集積地。

エレクトロニクスベルト : フロリダ州中部。タンパ、オーランドを中心に、IC工場やエレクトロニクス工場が立地する。典型的な臨空港指向型のIC工場群。

シリコンプレーン : テキサス州。ダラスには、テキサスインスツルメンツという世界的な半導体の開発製造企業がある。“プレーン”は、平面という意味。アメリカではシリコンプレーリーとも呼ばれる。

シリコンデザート : アリゾナ州。安価な労働力と土地を求めて、シリコンバレーから半導体工場やエレクトロニクス産業が移転してきた。“デザート”とは、砂漠のこと。

シリコンマウンテン : コロラド州。州都デンバーは西経105度に位置し、世界中の国と同営業日にやりとりができる。また、標高1600mにあるため、同営業日に一つの通信衛星を介するだけで世界中の国と通信ができる。そのためデンバーには多くの通信会社が集まっている。結果としてICT産業の集積につながった。

シリコンフォレスト : オレゴン州からワシントン州。ポートランドにはインテルの工場を中心に1200以上のハイテク企業が集積している。シアトルにはAmazonの本拠地がある。“フォレスト”は森のこと。古くから木材工業が盛んであった。

 

日本

シリコンロード : 東北地方。高速道路沿いにIC工場が立地した。最近は工場が海外に移転して数を減少させている。

シリコンアイランド : 九州地方。各地に空港が整備されているため、比較的土地が安いこともあって半導体製造が盛んに。

 

イギリス

シリコングレン : スコットランド南部。1953年にIBMが製造拠点を置いたのをきっかけに、エレクトロニクス産業の集積地になった。“グレン”とは、現地語(ゲール語)で谷の意味。

 

中国

“中国のシリコンヴァレー” : 北京郊外の中関村。元来電機部品を扱う地域だったところへ、中国政府の保護を受けてIT企業が集積した。

 

インド

“インドのシリコンヴァレー” : バンガロール。英語が話せて、理数系に強いとされるインド人。バンガロールの位置は、丁度アメリカから見て地球の裏側にあるので、電話対応やソフトウェア開発などをアメリカの夜間に請け負う。タミル地方と呼ばれるインド南部は、ドラヴィダ系民族の比率が高く、カースト制度で差別を受けている。IT系の職種は新しい仕事なので、カースト制度に縛られない。よって、インド南部ではIT系技術の習得に熱心な若者が多い。受験地理では出題頻度の高い項目。

 

 

IC工業・IT産業に関する統計

パソコンの生産(2014年)『地理統計』より

順位 国名 台数(千台)
1位 中国 288,996 98.1
2位 日本 4,247 1.4
3位 韓国 1,478 0.5

半導体メーカーの売上高(2017年)『世界国勢図会』より

順位 企業名 売上(百万ドル)
1位 サムスン電子(韓) 59,875 14.2
2位 インテル(米) 58,725 14.0
3位 SKハイニックス(韓) 26,370 6.3
4位 マイクロン・テクノロジー(米) 22,895 5.4
5位 クアルコム(米) 16,099 3.8

 

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