自動車産業は、日本の主要産業の一つです。高校地理でも、自動車産業に関連する用語が多数みられます。国内の工場立地としては、自動車メーカー別に工場立地を押さえておけば大丈夫です。しかし自動車産業全体としては、戦後日本の経済史とからめて理解しておく必要があるでしょう。図表の読み取りでは、「自動車」ではなく「輸送用機械」と書かれることもあるので注意が必要です。
自動車工業の歴史
ガソリンエンジンで動く自動車が発明されたのは、19世紀後半のドイツです。ダイムラーやベンツが最初とされています。しかし当時の自動車は高価で、一部の富裕層だけが所有できるものでした。
この流れを変えたのがアメリカのフォードでした。フォードは、1908年に「フォード・T型」を発売します。この新しい自動車は、流れ作業による大量生産方式で作られたもので、一般大衆でも購入可能な金額で販売されました。
用語:フォーディズム(フォードシステム) アメリカのフォード社が「フォード・T型」生産のために考案した大量生産システムと、その結果生まれた新しい経営思想。少品種大量生産を前提とし、非熟練労働者を大量雇用することで、彼らの消費意欲を高め、結果としては自社製品の売り上げ向上にもつながった。
欧米では1930年代、日本では1960年代にモータリゼーション(車社会化)が進行すると、公共交通機関の衰退や小売店舗の郊外化が見られるようになりました。
21世紀になると、環境意識の高まりとともに、従来のガソリン自動車へのネガティブな印象が語られるようになりました。その結果、バイオエタノールなどの新しい燃料、ハイブリッド車や電気自動車といった新しいエンジン装置などの開発が進みました。また、自動車の通行を制限するパークアンドライド方式やロードプライシング制度を導入する地域もみられます。
用語:バイオエタノール燃料 生物由来のエタノールで、自動車の燃料として使用できる。サトウキビとトウモロコシが特に利用され、ブラジルではサトウキビが、アメリカではトウモロコシが主に利用されている。
トウモロコシの需要増 ⇒ トウモロコシ価格の上昇(飼料も) ⇒ 畜産物の価格上昇
用語:パークアンドライド方式 市街地や観光地などへの自動車の乗り入れを制限して、近隣の駐車場から目的地までの公共交通機関を用意する制度。自動車を駐車(パーク)させて、市街地ではバス等に乗って(ライド)移動してもらう。
ストラスブール(フランス)やフライブルク(ドイツ)が有名。どちらも、シュヴァルツバルトの酸性雨問題への対策。
日本では、富士山(静岡県・山梨県)や上高地(長野県)などの観光地で採用されている。
用語:ロードプライシング制度 自動車の交通量を抑えるために、高速道路等ではない市街地の公道でも有料とする制度。ロンドン(イギリス)やシンガポールが有名。
自動車工業の立地類型
自動車工業は、多くの工程で機械化が進んでいますが、まだまだ多くの人手を必要とする加工組立型工業です。その意味では労働力指向型工業といえます。
また自動車の最終組立では、ミラー、ブレーキ、ハンドル、ガラス等、様々な種類の部品を組み立てているので、総合組立工業とも呼ばれます。各種部品は下請け企業や関連企業が製造しているので、完成品工場の周辺に集積すると効率が上がります(集積の利益)。よって、集積指向型工業にも分類されます。
ただし実際のところ、自動車会社は創業地に拠点をもち続けることがあります。よって創業地の周辺に企業が集積して企業城下町とよばれる状態を作り上げるのです。
世界の主な自動車都市
- アメリカ:デトロイト(フォード、GM、クライスラー)
- ドイツ:ヴォルフスブルク(フォルクスワーゲン)、シュツットガルト(ベンツ)、ミュンヘン(BMW)
- フランス:パリ郊外(ルノー)
- イタリア:トリノ(フィアット)
- イギリス:コヴェントリ(ジャガー)
- スウェーデン:イェーテボリ(ボルボ)
- 韓国:蔚山(ウルサン)(現代自動車)
日本における自動車工業
日本で最初の国産車は、1904年(明治37年)に岡山市で作られました。本格的な自動車生産は昭和になってからで、昭和初期にトヨタ自動車と日産自動車の前身が誕生しています。
1960年代の高度成長期には高速道路も作られ、モータリゼーションが浸透しましたが、同時に大気汚染、交通渋滞、交通事故などの社会問題も発生するようになりました。
1973年の石油危機(オイルショック)の影響で燃費向上を追及した日本車は、アメリカでも販売台数を伸ばしていきました。しかしアメリカから圧力を受けるようになり、日米貿易摩擦が始まります。日本は、自動車を現地生産することで摩擦の解消をはかり、本田技研(1982年)、日産(1983年)、マツダ(1987年)、トヨタ(1988年)とアメリカへ進出することになりました。
1985年のプラザ合意で円高が始まると、日本の自動車メーカーは積極的に海外へ生産拠点を移し、国際分業を進展させました。しかし国内の工場や雇用が減少したことで、産業の空洞化が起きました。
海外に生産拠点が増えた現在も、国内市場向けや高付加価値車種を国内で製造しています。近年は、自動運転車の開発が進んでいます。また、従来の自動車メーカー以外の会社が自動車作りを始めており、自動車工業の構造は変化し続けています。
日本の自動車メーカー別の主な工場
- トヨタ自動車(創業:愛知県豊田市) 豊田市(愛知県)、裾野市(静岡県)、宮若市(福岡県)、金ヶ崎町(岩手県)、大衡村(宮城県)
- 日産自動車(創業:神奈川県横浜市) 横須賀市(神奈川県)、栃木市(栃木県)苅田町(福岡県)
- スズキ(創業:静岡県浜松市) 湖西市・磐田市・牧之原市(静岡県)
- 三菱自動車工業(創業:?) 倉敷市(岡山県)、岡崎市(愛知県)、坂祝町(岐阜県)
- SUBARU(創業:群馬県太田市) 太田市(群馬県)
- マツダ(創業:広島県広島市) 広島市(広島県)、防府市(山口県)
自動車工業に関する統計
乗用車の生産台数(2017)『世界国勢図会』より
位 | 国名 | 台数(千台) |
1位 | 中国 | 24,807 |
2位 | 日本 | 8,348 |
3位 | ドイツ | 5,646 |
4位 | インド | 3,953 |
5位 | 韓国 | 3,735 |
乗用車の輸出台数(2016)『世界国勢図会』より
位 | 国名 | 台数(千台) |
1位 | フランス | 4,735 |
2位 | ドイツ | 4,411 |
3位 | 日本 | 4,118 |
4位 | 韓国 | 2,507 |
5位 | アメリカ | 2,115 |